大量に物を集める「溜め込み」も、強迫症状のひとつ?
強迫性障害(OCD)の症状の一つに、強迫的溜め込み(ホールディング
hoarding)があります。溜め込みの症状は、①収集・獲得が過剰(物を
大量に集めすぎる)、②収集した物を整理できない、③捨てられない、
と、大きく3つに分けられます。
強迫性障害による溜め込みには、強迫観念と強迫行為があり、強い不安、
苦痛、衝動を引き起こすことがあります。たとえば、それを捨てること
を想像しただけで、後で激しい後悔や苦痛が起きそうな気がして、普通
の人が見れば明らかにゴミでしかないものが、大量にあっても、捨てら
れません。
よく、テレビや雑誌で、「ゴミ屋敷」や「片付けられない人」というテ
ーマで特集が組まれたりすることがありますが、それらは必ずしもOCD
の症状とは限りません。似たような状況は、OCD以外の病気や障害に関
連しても起こることがあります。うつ病・うつ状態、注意欠陥・多動性
障害(AD/HD)、認知症、統合失調症、衝動制御障害などでも、これらの
症状が現れることがあります。
このような症状がある人が溜め込むもので、最も多いのは、雑誌、カタ
ログ、チラシ、新聞、メモ、レシートなどの紙類です。フリーマーケッ
トで買えるものや、無料で収集できるものを集める場合も多いようです。
そうした物を溜め込むことで、家の中での生活スペースが狭まり、寝る
場所にも困ったりと、生活に著しく支障をきたすこともあります。
溜め込んだ物が、家屋に被害を及ぼすほどの重量になることもあります。
また、二次的な被害として、ばい菌や害虫が発生したりしがちなので、
衛生面でも大いに懸念されます。梅雨、夏に向かうこれからの季節は注
意が必要です。
溜め込みの問題があり、OCDと診断された人が、不潔恐怖や確認など、
他の強迫の症状を経験することもあります。欧米では、OCD患者のうち、
強迫的溜め込みの症状を経験する人の割合は、およそ20~30%と推測
されています。
また、強迫性障害の治療の第一選択肢は薬物療法か認知行動療法ですが、
欧米の報告によると、溜め込み症状の患者さんに関しては、どちらの改
善率も一般のOCDの患者さんに比べて低くなっています。
欧米では多くの研究報告がある溜め込み症状ですが、日本ではあまり報
告がありません。しかし、日本でも患者さんの数は稀ではないので、対
応できる専門家が増えてほしいと思います。
参考文献:仙波純一 「強迫性障害の亜型としての”compulsive
Hoarding“(強迫的溜めこみ)」 『精神科治療学』Vol. 22 No. 6 Jun.
星和書店 2007年
David F. Tolin, Randy O. Frost, Gail Steketee, Buried in Treasures:
Help for Compulsive Acquiring, Saving, and Collecting, Oxford Univ.
Pr, 2007