中納言、初めての契りのあと、
「……さるべきにや、限りなき心のとどめがたくなりたるも、浅からぬ契りの程とおぼし慰めて。……。ただ今は、いかにもいかにも同じ心におぼしなりね」
「同じ心」がここに出ている。
これは和歌でもよく使う言い回しだ。
「初めてなのに同じ心になりましたね」などと言う。
ここでの状況はまさにそれで、
是非是非わたしと同じ狂おしいほどの心になって欲しいのだということだ。
相手の女はまだ若すぎて、男に対する手管もないのであるから、男としては、「もう同じ心だな」と思っているのだろう。
この物語は、各自の内心の独白を言葉にして作者が書いている。
一体誰の視点からの小説なんだと言われそうだが、
そんなことは関係ない。
絵物語では、屋根だけがすっぽりなくて、
のぞき見し放題の世界である。
「同じ心」の用例をあげる。
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はじめての後朝である。女は贈る。
はかなくて同じ心になりにしを 思ふがごとは思ふらんやぞ (中務・後撰集594)
はかないわ。同じ心になってしまいました。
私が思うほどにはあなたは思っていないみたい。
男が返して贈る
わびしさを同じ心と聞くからに 我が身をすてて君ぞかなしき (信明・後撰集595)
わびしいよ。同じ心と聞いたからには、
いま我が身をすてて、ただ I love you.
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