採録
「故郷喪失の時代」という昔の本があって
それは統合失調症の話だった
社会状況がどんなに大きく精神の病に影響しているかを考えると
やはり真剣に考えるべき事項だと思う
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昨年、NHKの「無縁社会」というシリーズが大きな反響を呼んだ。その後、100歳以上のはずの老人が行方不明になっている事件が多発し、老人が社会とのつながりを失って「無縁」になることが社会問題となった。こういう話は日本が本来「有縁社会」で、その古きよき日本が失われていくという感傷的なストーリーになっている。
しかし著者も指摘するように、無縁というのは中世では「自由」の意味だった。縁切り寺に飛び込めば公権力の追及も逃れることができ、楽市楽座のように領主が公認した場合もあり、堺のように一つの都市が領主から独立した場合もあった。日本の高度成長を支えたのも、人々の「無縁化」を求めるエネルギーだった。そのころのフォークソングには、地方から東京に出て行く恋人をテーマにした歌が多い。
恋人よ ぼくは旅立つ
東へと向かう 列車で
はなやいだ街で 君への贈りもの
探す 探すつもりだ
――「木綿のハンカチーフ」
このように高度成長は人々にとっては「故郷喪失」ではなく、希望を求めるリスクテイクだった。そして都会に集団就職した若者は、会社という共同体で「有縁化」されて企業戦士になった。彼らは文字通り「金の卵」だったので、企業は彼らを社宅や福利厚生施設や手厚い年金制度で囲い込んだ。彼らを低賃金で働かせるためには、年齢さえ上がれば誰でも昇進して高給がもらえるという幻想を植え付ける年功序列が必要だった。
それでも都市のブルーカラーや自営業者の職は不安定だった。こうした階層を「有縁化」したのが新宗教である。小さな工場や商店で働く人は、会社のようなコミュニティをもてないため、こうした宗教の定期的な集会に集まり、冠婚葬祭まで教団に面倒をみてもらうことで、宗教的コミュニティの一員となった。これは共産党の支持層とも重なっており、欧米の教会と似た役割を果たしている。
しかしサラリーマン社会は、それ自体を破壊する契機を含んでいた。「会社共同体」は個人の自律性が強まると弱体化する。製造業では会社がOJTで社員を教育するしかないが、IT産業では、若者が自分でコーディングを習得できる。こういう専門性を身につけた人々にとっては、終身雇用はかつての村落共同体のように自由を拘束するものでしかない。
サラリーマンは子供に仕事を継承せず、子供は親とまったく別の学校というコミュニティで生活する。家で親と一緒にテレビを見たり電話したりするより、ケータイで友人と会話している。このノマド的なコミュニケーションを「世帯」単位でみることは無意味だ。社会のサラリーマン化によって、家庭という究極の中間集団も崩壊しつつあるのだ。
このように会社や地域や家庭などの有縁ネットワークが弱まると、最後に頼るのは自分しかない。新たなコミュニティができるとしても、それは従来の古いネットワークを延命した先にはない。それはたぶん、ひとりひとりが無縁であることを自覚した上で新たに構築するGesellschaftでしかないのだろう。
そして誰もが、最期はひとりで死ぬ。死ぬときは無縁であり、コミュニティなんて幻想にすぎない。人生が幸福だったかどうかは、死ぬとき「あれをやっておきたかった」と思うか、「やりたいことはやった」と思うかではないだろうか。その意味では、もう朽ち果てるしかない日本型の有縁社会を延命することは、人々を不幸にするだけだと思う。
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孤独は幸福から一番遠いと思いますよ。
人間孤独だけは耐えられません。
孤独から脱することが出来るなら、自由を放棄する選択など容易いことでしょう。
今までは土台にコミュニティがあったため、安心して自由を選択できただけのことです。
個人の欲望は果てがありません。
コミュニティであれ宗教であれ、歴史であれ自然であれ、自分という個人が大きな流れの中にいることが感じられて初めて、死を受け入れられるような気がします。
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社会の60%は、能力の低い単純工です。その60%を如何に生かすかが、社会を安定的に維持するに必要な前提になります。
何らの手当もせずに、その階層を放り出せば、間違いなく彼らは搾取され、疎外されて社会を不安定にしてゆくことでしょう。
無縁であることを自覚して、覚悟できて、自立して生きることが出来るのは、強者だけです。
能力のない若年者や、衰えた中古年者が排除される社会を幸せな社会と呼べるでしょうか。
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物質の集団は1分子当たりのエネルギーを増大させて行くことで、固体状態から液体状態へ、そして気体状態へと相転移して行きます。
人間の集団も同じように、1人当たりが利用出来るエネルギーが増大して行くことで、身分が固定された"solid state society"からより自由な"liquid state society"へ、そして最終的には"gas state society"へと相転移して行くのでしょう。今はまだ"liquid state society"の状態ですが、このまま文明が発達すればいずれ"gas state society"の段階に到達するでしょう。そのような社会に適応出来ない人々は各相転移の段階で淘汰されてしまうかも知れません。
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最後の、相転移のようなことが現実には起こっていて、自己愛性性格者とか発達障害で見られる「三つ組」障害とかにつながっているのだと思う。