聞こえないことは起こらなかった 見えないことは存在しなかった

聞こえないことは起こらなかった

見えないことは存在しなかった
そのように見なすことのできるのが人間である
しかしある程度高級な人間であれば
あったことをなかった事にすることはできないし
したことをしなかったことにはできない
自分は正当なことをしているのだと思い込もうとして
どうしても反省の心が湧いてきて
心に破綻が生じる
そのようなものだと思う
いま沈丁花の香りに包まれて
昔の幾つかの場面を思い出している
沈丁花の高雅な香りもこれで最後なのかもしれない
しかしそれでいい、もうそれでいいと思う
あの日、私は未来の時間を浪費していた
こんなにも短いとは全く思わなかった
いま、地震のこととか放射能のこととか放送されているのだが
この年になって放射能のことも特に怖くはないと感じている
愛憎のすべても遠くに見えている