マインドフルネスによる認知行動療法

マインドフルネスによる認知行動療法
      マインドフルネスとは今の瞬間の現実に常に気づきを向け、その現実をあるがままに知覚し、それに対する思考や感情には捉われないでいる心の持ち方、存在の有様。われわれが通常対象を知覚する際には、ほぼ自動的に解釈したり評価する思考が起こり、それと同時に好き嫌いなどの感情も加わった上で認識が成立している。しかし、その解釈、評価、感情のほとんどが個人的(集団的、文化的、本能的)なバイアスに由来しているため、現実をありのまま知覚することは非常に困難になっている。つまり、思考や感情(自己イメージも含む)は現実や自分そのものではなく心の中の一過性の出来事にすぎないのであるが、そういったものが自分と対象との間に割り込んでくるために、対象をあるがままに体験できなくなり、そのことが限りない誤解や苦しみを生む原因になっていると考えるのである。
  対象のあるがままの体験鳥は鳴き、空に消えていくそしていま最後の雲が流れ去る共に坐るわれら、山と私山だけが残るまで
 (李白の漢詩の訳文:ラリー・ローゼンバーグ著、井上ウィマラ訳、「呼吸による癒し」、春秋社)
            操作的定義(狭義)Bishop SR: Psychosom Med. 64(1):71-83, 2002What do we really know about mindfulness-based stress reduction? Mindfulness has been described as a state in which one is “fully present in the moment, focused on the reality of the situation,” while “acknowledging and accepting it for what it is”. There have been no attempts to operationalize these qualities. However, each of the three dimensions seems to involve an aspect of attention regulation.
マインドフルネスと記憶と認知Sati < sarati (思い出す)念: 今ここを思い出す(忘れな い)心1秒前、0.1秒前を思い出す体験記憶による・私・の認知に必要な 時間純粋体験呼吸による気づきの教え呼吸を4つの領域(身、受、心、法) から、16の視点で見つめるトレー ニングシステム(井上ウィマラ)。
4つの領域とは身体感受心法則性
身体: アクセプタンスということ規則正しい呼吸と、そのままの呼 吸長く息を吸っているときには、「長く 息を吸っている」と知り、長く息を吐 いているときには、「長く息を吐いて いる」と知る。短く息を吸っているときには、「短く 息を吸っている」と知り、短く息を吐 いているときには、「短く息を吐いて いる」と知る。身体表現性障害患者に対する対 応ー「身体のことは身体に任せま しょう」。感受: 六根に対する「ディフュージョン」「見るものは見ただけで、聞くものは聞いただけで、 感じたものは感じただけ、考えたことは考えただけでとどまりなさい。そのときあなたは、外にはいない。 内にもいない。外にも、内にもいないあなたはどちら にもいない。それは一切の苦しみの終わりである」。つまり、ブッダは、とりわけ、感受のアクセプタンスを重視したことになる。感受で止めて、外(外的事物にまつわる勝手な思い込みの生成)にも、内(勝手な自己イメージの生成)にも広げない。その為の方法が、ラベリング、実況生中継。呼吸で止まることができれば、感受を対象にする必要はない。
  ヴィパッサナー実践の三原則スローモーションからだを普通のスピードで動かすのではなく、できるだけゆっくりスローな動きにする。まずは、歩く、立つ、座る、から行う。実況生中継今行っていることを、頭の中で簡単な言葉で確認する。それを隙間無く切れ目なく行い、今の瞬間にとどまるようにする。これを実行すると、雑念が消え、瞬時に集中力が生まれてくる。感覚の変化を感じ取る手を上げたり、歩いたり、座ったりするたびに、からだの感覚が変わる。考えるときも激しく感情が変わっていく。これらの変化を感じ取り、何も解釈をせず、そこで止めるようにする。
                瞑想の種類と特徴                      思考の素性思考は「無知(心の基本的状態)」に由来する。何を考えても、それはバイアスを伴 う。思考がなくても五感は働く。対象のあるがままの体験。「ワナワナ」リーディング(光の読書)。言葉が思考の拮抗反応になる。思考が無くなったとき智慧が働き始める。サティパンニャ(事実と出会った瞬間 に、その本質を見極める力)。      心: 貪瞋痴への気づき感受に基いて思考が展開する結果生まれてくるもの(感情に近い内容)。貪:欲(Wanting)、瞋:怒り(Aversion)、痴:混乱(Delusion、Selfing)気づいて、放っておくことによって、それ以後の増殖が止まる。身体のことは身体に、感受のことは感受に、心のことは心に任せる。われわれは、何も握り締めていないし、誰とも戦っていないし、どこにも向かってはいないことに気づく。呼吸、感受で止まることができれば、心を対象にする必要はない。法則性: 無常・苦・無我ということ呼吸、感受、心で止まることができなければ、ここまでが観察の対象になる。智慧とは、無常・苦・無我を深く理解すること。無常ー私的出来事、公的出来事の全ては、常に変化している、一過性のものである。苦(Unsatisfactoriness)ー常に変化しているものを頼みにすれば、十分に満足できることはありえない。無我ー私的出来事、公的出来事をコントロールすることはできず、「自分」も私的出来事の一つにすぎない。
                    「自分」の正体「自分」(一貫したアイデンティティ)とは、構成概念である。「heuristicな自分」と言ってもよく、「記憶」がその妥当性を支えると考えられている。構成概念のメリット、デメリットは、拘束条件を提供すること。自己概念の影響力の大きさは、『金持ち父さん 貧乏父さん』に詳しい。「瞬間瞬間の自分」(六根=五感+イメージで、内外の環境を認識する心の働き)は存在するが、対象との間に分離はなく、時々刻々変わっていくものである(それを「自分」と呼ぶかどうかは別問題)。「瞬間瞬間の自分」を、常に見失わないようにすることが、マインドフルネス。
            心理臨床への示唆身体(呼吸)プラスチックの骨を追いかけるのはやめよう。(思考の効力を疑う)感受(感覚)複雑にするな。そして今の瞬間にしっかりつかまっていろ。「放っておけ」療法、「置いておく」療法。(アクセプタンス)心(感情)自分は○○って、ほんとにそうか?(自己概念の相対化)法則性(智慧)全ての感情や自己イメージは、心の中の一過性の出来事にすぎない。(全ての私的出来事の機能を変える)
Aさん1(40代主婦、気分変調性障害)Aさん)お掃除とか、お茶碗洗いとか、やってみたけど、なかなかうまくいかない。集中、集中と言い聞かせるけど、「なんでお掃除しなくちゃいけないの」「なんでパチンコじゃないの」。しまいには嫌になって止めてしまう。雑念がわくのがよくないんだろうと思って、色々工夫をしてみたけど、なかなかうまくいかない。今は、10分だけと時間を区切っている。 Th)結果的には、全然できなかった家事ができましたね。Aさん)でも、何のためにやるように言われたのか分からなくなった。掃除はよくて、どうしてパチンコはいけないんだろうと。Th)単純だけど面倒なことをしようとすることで、雑念が多いこと、雑念をなくすのは難しいことに気づいたことが大切。でもそこで雑念を押しのけようとするのはいい方法ではない。気づいた時点で、目の前に作業に戻る。Aさん)集中と思うけど、またすぐにそれて、繰り返しているうちに嫌になる。Th)今は置いておいてと思って、そっと戻る。何度それてもいいし、雑念が出てくるのは悪いことじゃない。考え続けるとよくない。それを繰り返していれば、段々雑念につかまらなくなり、気が重くなることも減ってくる。
Aさん2(40代主婦、気分変調性障害)Aさん)先生に言われたように一生懸命やっているけど、一つのことに集中するのが苦手みたいで、耐えず浮かんでは消え浮かんでは消え。ずっと考え続けているようです。Th)それに気づいたのはとてもよかったと思います。Aさん)おかげさまで家の中がきれいになった。車の運転も30分くらいならできるようになった。お料理も簡単なものなら。家事は30分くらいしか続かない。それくらいの時間なら、あまり苦にならなくなった。でも前はもっとできた。Th)それでとてもいいと思います。急には変わらないから。考えることと、考え続けることは違う。考え続けることが減った結果、あまり苦じゃなくできるようになったのだと思います。
Aさん3(40代主婦、気分変調性障害)Aさん)考えることと、考え続けることは違うと言われて、考えすぎることはなくなって、嫌な気持ちになることも減りました(元気なさげ)。Th)それはとてもよかったですね。Aさん)ただ、町会でどうしてもご一緒しなくてはならない方で、どう考えても相手の言ってることがおかしいと思う人がいるんです。これまでは言い返したりしていたんですが、考え続けないようにと思って、何か言われても、そういうことがなかったように振舞うようにしました。それで気は楽になったんですが、これでよいのかどうか分からない。Th)考え続けるのは巻き込まれている状態。でも、排除して見ないようにするのもいい手じゃない。心を閉じてしまって、逆にいつまでも苦手意識が続くことにもなるから。「世の中色々な人がいるから、嫌な気持ちになったり腹が立ったりするのは当然と自分の気持ちを認めてあげて、でも今は町会の仕事をしているんだから、ちょっと横に置いて、早めに片付けて帰ろう」と思ってみて下さい。
Bさん1(40代男性会社員、全般性不安障害) 大分よくなり、「薬をやめたい」と言い出しました。それでも、「でも、やめたらどうなるか心配だ」「でもやめたい、でもやめたらどうなるか心配」というふうに何度も繰り返していました。それでもやっぱりこの人はもうやめるんだと決めて、思い切って「えいや」ってやめました。そしたら、ものすごい不安感が襲ってきて、それで、もう3日3晩眠れなかった。 それで、3日間眠れなかったときに、不安でどうしようもなくて、一人でカラオケボックスに出かけて、夜2時間ぐらい歌っていたんだそうです。歌っているときはまあ何とか気持ちのほうは楽になるんだけれども、歌が終わるととガーっと不安が出てきて、もう呑み込まれてしまう。ただ、ある曲の間奏を聴いている時に、不安がフッとなくなって、でも心臓はそれまでで一番爆発しているようにバクバク、バクバク。でも、不安はないので家に帰れるなと思って、家に帰って布団に入った。それでも夜もずっとドキドキしていて眠れなくて、でも不安はなくて、明け方ちょっとうとうとできた、そういう日があったと話をしてくれました。そしてその次の日から眠れるようになり、結局薬も止めることができました。
Bさん2(40代男性会社員、全般性不安障害) Bさんにとってこれがどんな意味があったかと言うと、「不安がなくても自分はいる」というとても新鮮な体験になったようです。それまで、この方にとって不安がないという現実はなかったのです。でもこの体験で、ある瞬間に不安がないことに気がついた。でも心臓はバクバクすごい勢いで打っている。こんなときは今までは不安で、もうどうしようもないくらいの状態だったはずなんです。でも不安がない。それでも自分がいるんだということにこの人は気がついたわけです。 この体験を通して、Bさんは「不安な自分」との同一化から離れることができ、その結果「不安障害のBさん」でもなくなったと言えるでしょう。                                              Cさん(30代女性、広場恐怖を伴うパニック障害)          マインドフルネスと生活マインドフルネスを生活全般に行き渡らせることができれば、さらに効果は大きくなる。例えば、赤信号を一つの合図にして、立ち止まり、 息を吸って吐いて今の瞬間に戻る(われわれはどこにも向かっていないことを思い出す)。行為者なき行為:皿洗いをするために、皿洗いをする(きれいにするためではない)。途中で雑念が浮かんできたら、静かに目の前の作業に戻ることをくり返す。ストレス状況で身体や心が痛む時、「痛み」ときちんと自覚したところでとどまり、痛みを苦しみに変える物語を作り出さないようにする。
認知行動療法の歴史第一世代レスポンデント条件付け刺激強化子随伴性条件刺激が無条件刺激の機能を獲得するS ⇒R「エクスポージャ法による消去」が代表的技法オペラント条件付け反応強化子随伴性+刺激性制御行動の結果が、反応を増・減する機能をもつ弁別刺激は、随伴性の内容を示す機能を持つ三項分析S ⇒R ⇒C「報酬学習・回避学習による行動形成」が代表的技法
                          第二世代認知的変数の設定気分障害や不安障害などに対する臨床的要請から発達媒介変数から独立変数へ、位置づけの転換つまり、認知の内容や頻度を変えることが目的にA-B-C分析(反応強化子随伴性は考慮せず)S ⇒O ⇒R 「認知再構成法」が代表的技法現実的には、多くの行動的技法(第一世代)を使用
                          第三世代言語行動(認知)は、第一世代と同じ原理で説明可能徹底的行動主義の立場をとる(vs.方法論的行動主義)特定の認知も、どのような文脈下で学習されたかが重視され、どのような機能を持つのかが主要な問題になるS ⇒R ⇒C /  S ⇒R刺激等価性(オペラント条件付けで成立)によって、様々な言語刺激が無条件刺激の機能を獲得し、その結果体験の回避を助長する弁別刺激が増殖していくルール支配行動(刺激性制御=フィードフォワード)が優位になり、反応強化子随伴性(フィードバック)の機能が低下「認知的ディフュージョン」と「行動活性化」が代表的技法                                                                                        マインドフルネスの臨床応用Mindfulness-Based Stress Reduction (MBSR)Mindfulness-Based Cognitive Therapy (MBCT)Dialectical Behavior Therapy (DBT)Acceptance and Commitment Therapy (ACT)
  MBSR・MBCTの狙い(1)心のモードの切り替え「すること」モードから、「あること」 モードへギアチェンジする。「もっともっと」の気持ち(渇愛=Craving)を離れて、何も握りしめて はいない、誰とも戦ってはいない、ど こにも向かっていないことを思い出 す。自己イメージの大きな変化を伴い、 自己評価の基準も変わる。その上で、今、何をするべきかをよく 見極め、行動に移していく。
  MBSR・MBCTの狙い(2)認知の機能を変えるこれまで何度も考えてきたこと、感じ ていた気持ち、思い出していた記憶 は、相変わらず出てくる。なぜならば、それらは繰り返し学習 されて、習慣になっているものだか ら。そこで「出てくるもの」の内容を変え る必要はない、それとの関係を変え ていければよい。相変わらず心に浮かんできたとして も、生活が邪魔されないようになる ことが、当面の目標。そのためには、何が出て来ているの かを、少し離れたところから、きちん と見ることが必要。
  MBSR・MBCTの狙い(3)具体的な実践法「雑念、戻ります」と横に置いておく -アクセプタンス。横に置いてどこに戻るのかというと、 目の前の「呼吸」「生活」「今やって いること」「やるべきこと」。これを続けていると、そのうち、浮か んでくること自体も減ってくる。考えることと、考え続けること(=反 すう)は違う。体のことは体に任せて、感覚のこと は感覚に任せて、感情のことは感情 にまかせておく。
          MBSRのメタ解析(1)Grossman P et al: J Psychosom Res. 57(1):35-43, 2004Mindfulness-based stress reduction and health benefits. A meta-analysis.Mindfulness-based stress reduction (MBSR) is a structured group program that employs mindfulness meditation to alleviate suffering associated with physical, psychosomatic and psychiatric disorders. The program, nonreligious and nonesoteric, is based upon a systematic procedure to develop enhanced awareness of moment-to-moment experience of perceptible mental processes. The approach assumes that greater awareness will provide more veridical perception, reduce negative affect and improve vitality and coping. 
          MBSRのメタ解析(2)METHODS: Sixty-four empirical studies were found, but only 20 reports met criteria of acceptable quality or relevance to be included in the meta-analysis. Acceptable studies covered a wide spectrum of clinical populations (e.g., pain, cancer, heart disease, depression, and anxiety), as well as stressed nonclinical groups. Both controlled and observational investigations were included. Standardized measures of physical and mental well-being constituted the dependent variables of the analysis. RESULTS: Overall, both controlled and uncontrolled studies showed similar effect sizes of approximately 0.5 (P<.0001) with homogeneity of distribution. 
          MBSRのメタ解析(3)MBCTとメタ認知的気づき(1)Teasdale JD et al: J Consult Clin Psychol. 70(2):275-87, 2002 Metacognitive awareness and prevention of relapse in depression: empirical evidence.Metacognitive awareness is a cognitive set in which negative thoughts/feelings are experienced as mental events, rather than as the self. The authors hypothesized that (a) reduced metacognitive awareness would be associated with vulnerability to depression and (b) cognitive therapy (CT) and mindfulness-based CT (MBCT) would reduce depressive relapse by increasing metacognitive awareness. 
MBCTとメタ認知的気づき(2)They found (a) accessibility of metacognitive sets to depressive cues was less in a vulnerable group (residually depressed patients) than in nondepressed controls; (b) accessibility of metacognitive sets predicted relapse in residually depressed patients; (c) where CT reduced relapse in residually depressed patients, it increased accessibility of metacognitive sets; and (d) where MBCT reduced relapse in recovered depressed patients, it increased accessibility of metacognitive sets. CT and MBCT may reduce relapse by changing relationships to negative thoughts rather than by changing belief in thought content.
MBCTとメタ認知的気づき(3)
                        ACTとはルール支配行動(刺激性制御=フィードフォワード)が優位な状態〔認知的フュージョン、過去と未来の優位、概念としての自己への固執、体験の回避〕から、反応強化子随伴性(フィードバック)が正当に働く状態〔認知的ディフュージョン、アクセプタンス、今の瞬間との接触、文脈としての自己の自覚、価値の明確化、コミットされた行為〕への転換を目指す。「頭でっかちな自分は横に置いて目の前の現実に注意を向けよう、そして、やりたいこと、やるべきことに集中しよう」。概念としての自己、プロセスとしての自己、そのプロセスが起こる場(文脈)としての自己を想定。ACTとエクスポージャの対象通常のエクスポージャ:不安や恐怖を喚起する「外的刺激」最もうまくいくのは、「心を閉じない、呑み込まれない」とき。EMDR:心的外傷となっている「記憶」治療の初期に、一度も思い出したことのない記憶場面が詳しく思い出されてくることが多い。ACTの認知的ディフージョン:「思考過程」不安過敏性の不思議。体験の回避:嫌悪的な状況だけでなく、それに対する自分の反応(嫌悪的な心理的事象)も回避する傾向。「我々はなぜ、思考や記憶、身体状態、情動その他の経験の側面についても、全く同じ手法(反駁ではなく、エクスポージャ)を用いようとしないのか」(Wilson KG & Murrell AR, 2004)。結果的に、認知の機能(believability)が変わる。
      認知的ディフュージョン思考の字義的な内容に対する反応のみが見られる場合、認知的フュージョンと呼ばれる(例:高所恐怖症の人が「高い所は怖い」と考えた場合に、自動的に恐怖のみで反応して、それ以外のことを考えられなくなる)。認知的ディフュージョンとは、関係性の(言語の)プロセスを介して心理的機能を獲得した刺激に対するレパートリーを拡大するような手続きを意味する。嫌悪性のある心理的な内容に対する開かれた受容的な姿勢を作り出すこと(アクセプタンス)。マインドフルネスになることは、ディフージョン方略の一つ(認知的フュージョンゆえに遍在している「苦しみ」に対するエクスポージャ)。
認知的ディフュージョンのための技法例瞑想中のように、 「思考」に囚われずに、眺めるようにしてみる。「思考」を、音だけしか感じられないようになるまで、大きな声で何百回も繰り返し言ってみる。 「思考」に大きさ、形、色、スピード、様式、風合いを与え、外的な事物を観察するのと同じように扱ってみる。 自分の心に、とても面白い「思考」を思いついてくれてありがとうと言う。 「思考」に関連して出てくる身体感覚、感情、記憶、行動傾向 をよく観察して、それらの出来事を、生命現象の展開や変化の色々な側面として体験できるように時間をとってみる。自分の認知的過程にラベル付けをしてみる (例:『今私は、自分が完璧じゃないといけない、という「思考」を思い浮かべている』)。 「思考」を、一つひとつの言葉を頭の中で言うのに何分もかかるくらいゆっくりと、考えるようにしてみる。
              高所恐怖症の場合「高い所」という言葉や高い所から見下ろした写真などに、自動的に恐怖のみで反応する(認知的フュージョン)。怖くならないように(体験の回避)、高層ビルのレストランに行く、遊園地の観覧車に乗る、旅行に出かける、関係したテレビ番組や写真を見たりすることなどは避けている(行動レパートリーの抑制)。⇒これまでずっとそうだったんだから、怖いのは当たり前。それは横に置いておいて(アクセプタンス)、高い所にい続けるとどうなるか観察してやろう(マインドフルネス)。 高所恐怖症を克服してずっと行きたかった名所に出かけて、楽しい生活を手に入れよう(価値に基いた行動)。
                    糖尿病の場合糖尿病のことを考えると、いつも一定のイメージや考えが浮かんでとても嫌な気持ちになるので(認知的フュージョン)、自分が糖尿病であることはなるべく考えないようにしている(体験の回避)。糖尿病のことを思い出したくないので(体験の回避)、食事や運動に気をつけたりはしないし、薬ものみたくない(行動レパートリーの抑制)。⇒糖尿病は確かに大変な病気だから嫌な気持ちになるのは当然。それでも、それは横に置いておいて(アクセプタンス)、治療に取り組んで健康を維持すること(価値に基いた行動)は可能。