摂食障害と向き合う:/2 体への影響深刻
拒食症による体への影響 ◇腎不全、低身長、骨粗しょう症にも--やせ礼賛の風潮背景、患者増加
摂食障害では、過食と嘔吐(おうと)を繰り返したり、無理に排出する方法として下剤や利尿剤、浣腸(かんちょう)などに頼るケースも多い。
横浜市の30代女性は18年近く下剤に依存していた。初めて下剤に手を伸ばしたのは16歳の時。「食べても出してしまえば太らない。こんなに簡単に出せるものがあるんだと思った」と振り返る。
中3の時、盲腸で入院して体重が3キロ落ちると、やせることが面白くなった。最初は浣腸の乱用から始まった。入院中、便秘を解消する目的で処方されたが、退院後は自分で購入し毎日使うようになった。1日1ダースまで使用量が増えたが、効きが悪くなってきたため、下剤に切り替えた。
母の死、父の再婚で生活が一変すると、ますますやせることにのめり込んだ。ほとんど食べず飲まずの生活でも、下剤だけは手放さなかった。使い始めは1日3錠だったが、徐々に1日400錠まで増えた。下剤代は1カ月15万円以上。「0・5キロでも太れば自分の価値が下がると思いこんでいた」。体重は30キロ前後に落ち、脱水症状で倒れては病院に運び込まれた。
30歳を過ぎてから下剤を絶ったが、長年の乱用で体は水分調整ができなくなっていたという。「やめたとたん、むくみで体重が10キロも増えた。外見が変わることに耐えられず、下剤をやめようとしても挫折する人が多い」。「下剤に手を出すのは簡単。でも依存度が高く恐ろしいものだということを知ってほしい」と自分の体験から警告する。
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嘔吐や下剤乱用が体に及ぼす影響は深刻だ。政策研究大学院大学保健管理センター(東京都港区)の鈴木真理教授は「体内でリサイクルされるべき消化液や電解質も出てしまう。腎臓へ行く水分が減って腎不全になり、生涯、透析が必要になる場合もある」と話す。嘔吐で出る胃酸のため歯が溶けて、30代で総入れ歯になったケースもあるという。
さらに摂食障害のきっかけとなる過激なダイエットの弊害として▽低身長▽骨粗しょう症▽生理が止まる--などを挙げる。骨粗しょう症の予防は、成長期に骨に含まれるカルシウムをいかに増やすかにかかっている。女子は14~20歳、男子は14~18歳が最高になる時期なので気を付けたい。また、成長期に低栄養の状態が長く続くと、身長の伸びが止まり、低身長を招く。
さらに、拒食症患者は病気だという自覚がなく、「病院に行くと太らされる」と受診を拒絶しがちだ。鈴木教授は「標準体重の55%を切ったら命を落とす危険があるので必ず入院を」と警告する。
では、なぜ患者は増えているのだろうか。摂食障害患者を多数手がける「久里浜アルコール症センター」(神奈川県横須賀市)の心理療法士、武田綾さんは「背景に、やせていることを美しいとする社会の風潮がある」と指摘。また、発症しやすい人には▽完全主義▽対人緊張▽問題処理能力が乏しい▽自己評価が低い--など共通の傾向があるという。こうした本人の資質やストレス、やせ礼賛の風潮などが絡み合って発症するとみられる。
さらに武田さんは、摂食障害患者の心理として「人間関係など何か困難に直面した時、やせて外見を美しくすれば評価されると問題をすりかえがちだ」と説明する。病気は長期化するケースが多いが「やせて病気のままでいれば、内面の問題を直視せずにすみ、現実逃避ができると考えるのではないか」。症状に苦しみつつ、その症状を必要とする--。摂食障害の深刻さが垣間見える。
◇真の回復は内面の問題の解決
医療機関ではどんな治療をしていくのだろうか。国立国際医療センター国府台(こうのだい)病院(千葉県市川市)心療内科の石川俊男部長に聞いた。
摂食障害患者は、「一口食べたら太る」のように、体重や体形などについてゆがんだ認識を持っている。こうした社会生活上、支障となる認知のゆがみを修正する認知行動療法が治療の中心となる。
とはいえ、極端にやせた低栄養の状態では、脳の機能が低下し適切な思考や判断ができない。拒食症の場合、まずは十分な体力を回復することが優先で、段階的に食事量や体重を増やし、栄養状態を改善することから始める。しかし、根底には肥満恐怖があるため、体重を増やす治療に抵抗する患者も多く、難航することが多いという。
患者の家族は、体重や食行動が正常に戻れば回復したと思いがちだが、石川部長は「根本的な発症要因である内面に抱えた問題が解決しなければ、真の回復とはいえない」と指摘する。「本人が自ら問題に向き合い、自立することが最終目標」と話す。
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■標準体重の出し方
・身長160センチ以上→(身長-100)×0.9
・身長150センチ超~160センチ未満→50+(身長-150)×0.4
・身長150センチ以下→身長-100
※「ダイエット障害」より