その人は、切れ長の目をしている。
コップの外側についた水滴を指で遊びながら、
話し続ける。
水が指先をぬらしているが、
ときどき手を目のまわりに滑らせているので、
涙も少し混じっているのかもしれない。
まぶたの縁の水滴は
涙なのか水滴なのか区別がつかない。
「ブラザーフッド」のチャン・ドンゴンについて
話している。
「甘い人生」のイ・ビョンボンについて
話している。
ずっと気になっていたことをきいてみた。
「以前、大恋愛をしたと話していたよね?」
その人は動揺しなかったようだ。
「いやだ、何かの勢いでそんなことを言ったのね。酔ってたのかな、わたし。
普通の恋愛よ。若い頃ってそうじゃない。」
切れ長の目は冬至の日の雨を見つめている。
「ゆず湯にはいるのよね」
そう言って、きれいな唇が小さく動いている。
口紅はとても抑えた色。
茶人は、季節と天気と人と気持ちに合わせる。
メッセージは、謙抑。
抑えなさいと言われている。
目が覚めたら
暗い部屋で
汗をたくさんかいていた。
吐き気がする。
ドンペリドンEMECをなめた。
現実は厳しい。
「植物物語」のいい香りに慰められている。
夢から覚めたあとの感覚は、
笑うチェシャ猫で、
猫のない笑いのようだ。
*****
君ならずして誰か偲ばむ
2007-12-23