サルがアルツハイマー病にならない理由

サルがアルツハイマー病にならない理由

ヒトはアルツハイマー病になるが、進化的にヒトに最も近いチンパンジーや他の霊長類はルツハイマー病にならないという奇妙な現象が以前から知られている。さらに不可解なのは、チンパンジーをはじめとするヒト以外の霊長類の脳にも、ヒトのアルツハイマー病の原因と考えられているアミロイド蛋白(たんぱく)が蓄積したアミロイド斑(プラーク)がみられることである。この謎を解く一つの手がかりが得られたとの報告が、医学誌「Neurobiology of Aging(加齢神経生物学)」最新号に掲載された(オンライン版には3月31日掲載)。

研究グループは、プラークの蓄積を追跡する「標識」分子がヒトの脳のプラークには容易に付着するが、類人猿やサルの脳のプラークには付着しにくいことを明らかにした。このことから、それぞれのプラークには基本的な構造の違いがあることが示される。この違いを明らかにできれば、他の霊長類と同じようにヒトの脳でもプラークを無害にする方法につながる可能性があるという。

研究著者である米エモリーEmory大学(アトランタ)ヤーキスYerkes国立霊長類研究センタのRebecca Rosen氏は「ヒトとそれ以外の霊長類とでなぜプラークの構造が異なるのかは大きな疑問であるが、その構造を識別する有用なツールである標識分子PIB(ピッツバーグ化合物B)を用いれば、ヒトの脳プラークの毒性をさらに詳しく理解することができるはずだ」と述べている。しかし別の専門家は、治療や予防の点で意義のあるものかどうかはわからないと指摘している。

ヒトのアミロイド蛋白のアミノ酸配列がサルの脳のものとは異なることから、その構造が異なるのではないかとの仮説が立てられていた。Rosen氏らは今回、この仮説を検証するため、アルツハイマー病の診断に広く利用されるPIBを用いた。死亡したアカゲザル9例、リスザル6例、チンパンジー3例および末期アルツハイマー病のヒト9例、高齢だが健康なヒト3例から採取した脳組織にPIBを用いたところ、PIBがサルや類人猿の脳のプラークに対して強い付着性をもたないことが示されたという。これはマウスの脳と同様の結果だという。

このほか、同センターの別の研究グループによる最近の報告では、赤外線による視標追跡検査がヒトの軽度認知障害を検知するのに有用であることが明らかにされた。軽度認知障害は、時にアルツハイマー病の前駆症状となる。