香山リカのココロの万華鏡:うつ病からの職場復帰 /東京
精神医療のホットな話題のひとつに、「うつ病からの職場復帰」というのがある。
うつ病で休職する社員や学校の先生が増えているが、「症状は改善してきているけれどなかなか仕事には戻れない」とか「一度、復職したけれどすぐに悪化してまた休みに入った」というケースも少なくないのだ。いつ「職場復帰OK」という判断を下すか。復職のための準備としてどんなことをすればよいのか。リハビリ出勤のプログラムはどうやって立てたらよいのか。復職後、再発を予防するにはどんな注意が必要か。精神科医も、職場や本人の家族などと連携を取り、試行錯誤を繰り返しながらこの問題に取り組んでいる。
職場によっても対応がずいぶん違うのを感じる。「完全に良くなってフルタイムでちゃんと働けるような状態で出社してください」とけんもほろろな会社もあれば、「出社してあいさつだけしてすぐ帰るところから始めてもらいます。3週間続けられたら、次は1時間の作業を」とやけに慎重な会社もある。もちろん、こちらとしては「ゆっくり行きましょう」と言ってもらった方がありがたいのだが、あまりにのろのろだとかえって間延びしてしまい、なかなか復職に到達できない場合もあるから難しい。
私自身、患者さんに図書館やプール、カフェなどに時間を決めて通ってもらって生活ペースを作り、電車や人ごみに慣れるところから始める、というプログラムをこなしてもらうことがあるが、指示しながら疑問も感じてしまう。もし自分だったら、仕事でもないのに毎朝10時に図書館に行く、などということはまずしないだろう。ずるずる時間がずれ、結局は行かなくなってしまう気がする。私の場合、「仕事だから仕方なく行かなければ」というちょっときゅうくつな気持ち、マイナスな気持ちが、日々の出勤のモチベーションになっているのだ。
そう考えれば、いくら復職のためのリハビリ出社やプログラムとはいえ、少々の負荷をかけなければ意欲もわかないのではないか。「失敗してもいいんですよ、行けるときに行きましょうね」ではなくて、「さあ、がんばって毎日3時間、仕事を再開してみましょう!」という“励ましモード”も必要かもしれない。もちろん、それが改善しつつあるうつ病を悪化させるほどのプレッシャーになるのは困るのだが。
そう、プレッシャーにならない程度の励まし。これがうつ病からの仕事復帰で一番難しいポイントだ。多くの人が笑顔で職場に戻れるよう、私ももっと工夫を重ねなくては。