- 抗ウイルス薬の静注で新型インフルエンザの重症患者が回復
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新型(H1N1豚)インフルエンザに罹患して生命の危機に瀕していた22歳の癌(がん)患者の女性が、抗ウイルス薬ザナミビル(商品名:リレンザ)を静脈注射(静注)するという例外的な治療方法によって完全に回復したとの報告が、英医学誌「Lancet」オンライン版に9月4日掲載された。リレンザは錠剤または吸入薬の形で認可されているが、静注薬としては認可されていない。
研究著者の一人である英ロンドン大学(UCL)病院のMichael Kidd博士によると、今回の症例では、消化器系の障害のため抗ウイルス薬オセルタミビル(商品名:タミフル)を吸収できていない徴候があり、粉状の吸入薬リレンザも多量の浸出液で肺がひどい炎症を生じていたため、十分に浸透していないと思われる状態であったという。患者は集中治療室(ICU)に入って16日が経過しており、肺に浸出液がたまってからは人工呼吸器を使用。癌の化学療法により免疫系も著しく低下していた。
経口でも吸入でも薬剤が肺に届かなかったことから、Kidd氏らは病院および親族との協議のもと、承認されていないリレンザの静注に踏み切った。この治療が奏効し、女性は急速に回復に向かい、体内のH1N1ウイルスが大幅に減少。5日後には自力で呼吸できるようになり、1週間余りでICUを出ることができた。著者らによると、ウイルスの増殖が抑制された後に炎症を鎮める目的で、リレンザ静注と同時に副腎皮質ステロイドも投与したという。
Kidd氏は、今回の奏効例から、この秋冬の新型インフルエンザの重症患者に対するリレンザの静注が今後広く受け入れられるようになることが予測されると述べ、この治療法が臨床現場へのプレッシャーを緩和することにもなると付け加えている。米国の専門家もこれに同意し、今回極めてリスクの高かった患者を救ったことは大きな業績であると述べている。
米国疾病管理予防センター(CDC)では、喘息、糖尿病、癌などの基礎疾患のある患者や免疫システムに障害のある患者をH1N1ウイルス感染による重症化リスクの高い患者と位置づけている。Kidd氏によると、今回の患者に副作用は認められていない。過去の臨床試験では、リレンザ静注は高用量でも成人で優れた忍容性がみられるほか、生後6カ月以降の小児にも使用可能であるという。腎疾患患者での用量調整の必要性や妊婦での安全性が確立されていないなど、いくつかの禁忌(きんき)に関わる問題はあるが、妊婦も新型インフルエンザの高リスクグループとされており、重篤な呼吸器疾患を来した場合、リスクを上回る利益が期待できるとKidd氏は述べている。