青少年への抗うつ薬の効果は自殺リスクを上回る
27件の比較試験のメタ分析より
青少年に対する抗うつ薬の効果は、自殺念慮/企図リスクを大きく上回ることが示された。米国Ohio州立大学のJeffrey A. Bridge氏らの報告で、詳細はJAMA誌2007年4月18日号に掲載された。
FDAは2005年、4400人を超える青少年を対象とした24件の比較試験のメタ分析で、自殺完遂の報告はなかったが、自殺念慮または自殺企図が偽薬群の2倍(介入群4%、偽薬群2%)という結果を受けて、すべての抗うつ薬に対し、重大な副作用に対する表示上の枠囲み警告(boxed warning)を添付するよう求めている。
著者らは、枠囲み警告により、青少年の患者が未治療の状況に置かれるリスクは決して小さくないと考え、抗うつ薬の利益とリスクを再度検証することにした。文献データベースなどで1988-2006年に報告された中から、19歳未満の患者に第2世代の抗うつ薬を投与し、リスクと利益についてプラセボ群と比較した試験研究を抽出した。そしてFDAの報告に含まれていた研究の中から20件と、それ以降に行われた新たな研究7件の計27件を選び、メタ分析を実施した。
これら研究で用いられていた薬剤は、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、エスシラロプラム、フルボキサミンといった選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRIs)と、ネファゾドン (セロトニン2A受容体遮断薬)、ベンラファキシン(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬:SNRI)、ミルタザピン(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬:NaSSA)だ。
対象疾患は、大うつ病(MDD)、強迫性障害(OCD)、OCD以外の不安障害の3つ。治療期間の中央値は、それぞれ8週間、11週間、11週間だった。
分析の結果、MDDでは、条件を満たした13件の試験(2910人)について、プールした絶対奏効率は、介入群61%(95%信頼区間58%-63%)、プラセボ群50%(47-53%)。プールしたリスク差は11.0%(7.1-14.9%)、治療必要数(NNT)は10(7-15)となった。一方、プールした絶対自殺念慮/企図率は、介入群3%(2-4%)、プラセボ群2%(1-2%)で、プールしたリスク差は1%(-0.1-2%)。危害必要数(NNH)は112となった。
OCDを対象とする6件の試験は、すべてSSRIを用いていた。分析対象となった被験者は705人。プールした奏功率は、SSRI群52%(46-57%)、プラセボ群32%(27-37%)で、リスク差は20%(13-27%)、NNTは6(4-8)だった。また、プールした自殺念慮/企図率は、SSRI群1%(0-2%)、プラセボ群0.3%(-0.3-1%)。プールしたリスク差は0.5%(-1-2%)、NNHは200。
OCD以外の不安障害では、6件の研究の1136人の被験者が分析対象となった。プールした奏功率は、介入群69%(65-73%)、プラセボ群39%(35-43%)。プールしたリスク差は37%(23-52%)、NNTは3(2-5)。プールした自殺念慮/企図率は、介入群1%(0.2-2%)、プラセボ群0.2%(-0.2-0.5%)。プールしたリスク差は0.7%(-0.4-2%)で、NNHは143だった。
以上のように、すべての研究で、プラセボ群に比べ介入群で自殺念慮/企図の頻度上昇が見られたが、適応症ごとに推算したリスク差には有意差はなかった。プラセボ薬に比べ抗うつ薬は、評価された3疾患に対して有効だった。効果は、OCD以外の不安障害で最も大きく、次がOCD、最も小さかったのがMDDだった。
今回の分析では、FDAが報告したデータに比べ、自殺念慮/企図のリスク差が小さい結果が得られた。その理由として著者らは、FDAの報告は固定効果モデルを使用し手いたのに対し、今回はランダム効果モデルを用いたことにあること、今回は新しい7件の研究を含んでいることにあると考えている。そして「第2世代の抗うつ薬は、第1選択薬の一つとして、それぞれの疾患に対する効果の差を念頭に置きながら、注意深い監視を怠らずに使用することが望ましい」と著者らは述べている。治療の選択は、医師と患者、患者の家族との話し合いにより決定すべきで、今回得られたような情報は、リスクと利益に基づく判断を容易にするはずだ。
原題は「Clinical Response and Risk for Reported Suicidal Ideation and Suicide Attempts in Pediatric Antidepressant」