東京の夜こそかなし

忘れたる

不可思議の夢

やさしくも蘇る

東京の夜こそかなし

春の愁いは

恋人の髪の香のごとく

ほのかに

やさしく

忍び寄るなる


ーー
春の夜の

心に少し

かかるもの

一筋残る

黒髪か

忘らるる身の

いとしさか

夜は夜とて

昼は昼ゆえ

黒髪の

いたずらに

乱れそめしか

読み捨てし

文がらなるか

春の夜の

心に少し

重きもの


ーー
竹久夢二より