採録
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ネットへの感覚や使い方がそれぞれどうなのか、そして、どんな風に考え、どう行動して(あるいは指導して)いけばいいのかは、機会があればイラスト満載で分かりやすい本にでもしてみたいなぁ~と考えているのですが(笑)、たぶん、内容量は圧倒的に女の子ページに軍配が上がるでしょう。それは、女の子たち自身も、女の子たちを取り巻く環境も、いろいろと複雑だからです。
そんな「複雑」の一例として、誰かを「うらやむ」気持ちが変化して「ねたみ」になってしまうとどんな行動を取るかを、実際に起きたことをご紹介したいと思います。大人としてどうするか、考え方は千差万別でしょうし、「どうにもならない!」と感じられる方もいるかもしれませんが、とにかく、ご一読ください。
ケース1:異性にモテモテの美人クラスメイトにムカつく!
一般的に、高校生にもなると日常会話の中に彼氏や彼女の話が出てくるのは不思議ではなくなります。それは、周囲に男の子がいない女子校でも同じです。ある女子校で、数年前にこんなことが起きました。
学校でも評判の美人のクラスメイト。文化祭のときは男子学生がいっぱい訪ねてくるし、学校帰りに男の子が待っていることもあるようなモテモテの女の子なのですが、普段の会話の中にもよく男の子のことが登場することが、一部の友達の「うらやましい」と思う感情に化学反応を起こさせてしまったようです。
ある日から突然、彼女のケータイには見ず知らずの男性たちから膨大なメールが届きだします。最初の数通は迷惑メールかな? と思っていたようですが、「ボクと付き合いませんか?」といった簡単な内容のものから、卑猥な写真が添付されているものまで、とにかくひどい状態に。また、メールだけではなく、電話もかかってくるようになります。メールや電話の内容から、どこかにメールアドレスと電話番号が写真付きで「彼氏募集中」として掲載されているはずだと気づきます。
出会い系に、自分がいつも使っているメールアドレスや電話番号と共に投稿されていた写真は、制服姿の教室で写されたもの。彼女自身はそれを撮った覚えがないので、誰かに隠し撮りされたのでしょう。学校内では、携帯電話の電源はオフというルールのある学校ですから、隠れて電源を入れ、気づかれないように写したとしか考えられません。
彼女は慌ててお兄さんに相談します。お兄さんはまず、出会い系サイトにページの削除要請をしました。そして、出会い系を見てかけてくる電話は片っ端から替わり、「オレの女に手を出すな!」とすごんでくれたのだそうです。お兄さん、あっぱれ!です。(笑)
ネットで一時的に広まった「この女子高生可愛い、メアド(メールアドレス)もケーバン(携帯番号)も本物」という情報は、ページがサイトから消えて見られなくなったと同時に「恐い人がバックにいるみたい」という噂がネット上に流れることで、一気に終息します。そして、彼女が携帯電話を新しくして番号を換え、メールアドレスも変更したことで、大きなトラブルに発展することなく落ち着きを取り戻しました。
自分はモテない(あるいは彼氏がいない? 失恋したばかり?)と悩んでいる学校の友達が、彼女をうらやましがるだけではどうにも納まらず、腹いせにとことん困らせてやりたくて後先を考えずに起こした行動。でも、これが自宅の電話番号だったら、番号をすぐに取り替えることもできなかったでしょうから、もっとトラブルは長引いたかもしれません。何より、彼女の身に危険が及んだらどうするつもりだったのでしょう。自分たちが犯罪を誘発するかもしれないなどとは微塵も考えない、浅はかさと危うさを感じる出来事でした。
ケース2:可愛くてチヤホヤされる後輩がとことん気に入らない!
これも、女子校で起きたことです。(ケース1と学校は違いますが、いずれも都内の私立女子校での出来事です)
その学校は、生徒がブログやプロフを作ることを禁止していたそうです。とは言えイマドキの女の子たち、こっそり作っている生徒も大勢います。もちろん、禁止されているわけですから、お行儀よく、健全に、いろいろと気を配りながらやっていたようなのですが。
いつ頃からか、自分のブログがものすごく荒らされるようになった女の子がいます。あまりに頻繁なので「そのうち落ち着くだろう」と放っておくようになり、ブログ全体がひどい状態になったタイミングで、先生から呼び出されます。「とにかく、今すぐ削除しなさい」と厳重注意を受けたのです。
荒らしたのも、言いつけたのも、いずれも同じ学校の先輩たちだと判明します。実は、成績もよく、ビジュアル的にもとても可愛く、学校内外を問わずいつもチヤホヤされている(ように見える)その後輩が、とにかく面白くなかったのだとか。そこで、あることないこと後輩の悪口をブログに書き込み、サイトをメチャクチャにし、それだけでは足らず何食わぬ顔で先生に言いつけて、先生の印象も悪くしようと考えたわけです。
学校とは関係のないプライベートなことまで規制したために、そのルールが生徒同士のいじめの手段に悪用されてしまった出来事ですが、女の子って本当に面倒だなぁ~と感じたのは言うまでもありません。
ケース3:有名になったとき、困らせてやる!
以前、ジャニーズのアイドルの追っかけをやっていた子がオーディションで上位の賞に輝いたとき、ジャニーズファンの一部の心無い女の子たちが誹謗中傷をあちらこちらに書き込んで大変だったという話を聴いたことがあります。
基本的にはどれも「○○くんに近づくために、オーディションを受けた」という内容なのですが、アイドルやイケメン俳優さんに近づきたくて受けたって、おいそれと受かるものではなく、当然、書いている女の子たちも「そんなの百も承知」なのでしょう。でも、自分たちより優位に立ってしまった(憧れの男性と同じ世界に入ってしまった)ことはねたましい以外のなにものでもなく、彼女がバッシングされて「ざまーみろ」と思えることで自分を慰めるしかスッキリしないという、悲しい心情なのだろうと想像します。
身近でも、同様なことが起きました。
とあるオーディションに合格した女の子が活動をスタ
ートするにあたり、友達とのコミュニケーションに欠かせないと思って大切にしてきたプロフ、リアル(=リアルタイムブログ)などを全てクローズすることを決意します。
ートするにあたり、友達とのコミュニケーションに欠かせないと思って大切にしてきたプロフ、リアル(=リアルタイムブログ)などを全てクローズすることを決意します。
「クローズするから」と伝えられる学校の友達はいいのですが、突然クローズしてしまっては、学校外の友達に「何かあったの?」と心配をかけてしまうと考えた彼女は親しい友達にはメールで知らせ、サイト上にも「○月×日を以ってココをクローズします!」と告知をしたのです。
オーディションを受けたことを知っていた子からは、「受かったのね、頑張って!」という応援メールが届きました。事情を知らない子も「了解。また作るときは教えてね~」などなど、メッセージを送ってくれました。でも、中にはこんなメッセージも。
「クローズしたってムダ。画面メモしたから、有名になったら暴露してやる!!」
サイト内には、友達と写したプリクラや携帯で撮った写真(それもあまりはっきりと分からないピントの甘いもの)しかなく、せいぜい大好きなアイドルの名前が落書きしてある程度。彼氏とのツーショット写真とかちゅープリのような週刊誌ネタになりそうなものは皆無です(だいたい彼氏なんていない!と当人談/笑)。彼女も「一体何を暴露するんだろう???」と疑問に感じたようです。その内容が、公開されて当人が困るかどうかを判断することもできないほど、感情が不安定になってしまったということでしょう。
私たち親の世代は、郷ひろみさんの大ファンだった松田聖子さんが歌手としてデビューし、恋人同士にまで発展したという実話を目の当たりにしています。どうせなら、将来それくらいになってギャフンと言わせてやれば? と激励してあげたのですが、とにもかくにも、四半世紀前にはなかった“誰でも情報源になれるネットというメディア”の存在は、女の子たちの複雑な気持ちのはけ口として使われていることに間違いはなさそうです。
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思春期の女の子だけに限ったことではありませんが、思春期は特に「自分より美人」「自分より背が高い」「自分よりスタイルがいい」などのように「努力だけではどうにも変えられない“自分より女の子として勝っているうらやましい要素”」は、コンプレックスが強い女の子ほど「腹立たしいこと」になってしまいがちです。
自分なりの価値基準や尺度がまだまだ定まらず、他人と比較することによってしか自分の立ち位置を探ることができない時期は、誰もが通る道。そんな時期なのに、保護者や先生といった周囲の大人たちはついつい比べて劣等感を持たせるようなことを言ってしまいます。それが度重なれば、素直に「うらやましいなぁ~」という感情を持てなくなり、「腹立たしい」「恨めしい」「ねたましい」となってしまうのではないでしょうか。そうして、モテる子、周囲に可愛がられる子、目立つ活動をする子、が恨みを買う対象となり、鬱憤(うっぷん)晴らしのためにネットが利用されるわけです。
単なる鬱憤晴らしのつもりが、誰かを困らせるだけに留まらず、心や身体や命を傷つけてしまうような事件に発展する可能性もなくはありません。また、ちょっとした書き込みが、脅迫罪や名誉毀損となってしまうこともないとは言い切れません。
自分のやったことが犯罪になってしまう、誰もそんなことを考えてはいません。その事実を教えてあげることも大切ですが、何より、思春期の女の子たちには、自分を認めてくれる周囲の環境が不可欠です。超アナログなことですが、女の子をネットトラブルに巻き込まないための第一歩はそのあたりにあるのだという現実を、受け止めていただけると嬉しいです。
(尾花 紀子=ネット教育アナリスト)