一部のアルツハイマー病患者の認知症に脳シャント手術が有用?

一部のアルツハイマー病患者の認知症に脳シャント手術が有用
2010/05/18(火) No.M012489
一部のアルツハイマー病患者では、別の神経学的疾患である正常圧水頭症(NPH)治療に用いられる脳のシャント手術が有用である可能性が、新しい研究によって示唆され、米フィラデルフィアで開催された米国脳神経外科学会(AANS)年次集会で発表された。
NPHは、脳の奥の脳室に過剰に髄液がたまったときに発症する。髄液貯留の理由は不明であるが、高齢者に発生しやすい。診断に際して医師は、歩行困難(歩行障害)、尿失禁、認知症あるいは記憶障害という3つの特異的な症状を調べる。脳内にカテーテルを埋め込み、腹腔内へ髄液を排除することで症状を緩徐化または軽減できることが多い。髄液は腹腔内で無害に再吸収される。NPHは1960年代以降、アルツハイマー病とは別の疾患と考えられてきた。
米バージニア大学健康科学センター(シャーロッツビル)脳神経外科のSebastian Koga博士らは、NPHと診断され、シャント手術を受けた患者50例を対象に、脳生検を実施。患者の約30%は、パーキンソン病様振戦(13%)、大うつ病(16%)、アルツハイマー病(3%)など他の疾患の診断も受けていた。手術後、平均26カ月間の追跡調査を行った。
研究の結果、ほぼ半数(47%)で症状が有意に改善したが、約21%は恩恵を得られず、30%は急速な悪化が続いた。脳組織を分析したところ、改善しない、または悪化する可能性の高い患者では、アルツハイマー病の特徴であるアミロイド斑および神経原線維のもつれ(tangles)も多くみられた。
Koga氏は「これらの患者にアルツハイマー病が併存していたとも考えられるが、2つの疾患が根本的に似ており、シャント手術が一部のアルツハイマー病患者に有用である可能性もある。NPHが特別な疾患過程でなく、認知症の領域の一部であるという仮説を立てた」と述べ、2つの疾患がいずれもタウ蛋白(たんぱく)の異常によって生じる可能性を指摘している。
同氏は「理論的には、同じ外科手術が症状の予防、またはアルツハイマー病の症状改善に有用でありうる」と述べ、シャント手術の恩恵を得られる患者を特定するバイオマーカーの研究を進めている。別の専門家は「現在、この2つの鑑別は困難であり、神経科医や脳神経外科医は、患者の症状、理学的検査、脳スキャン、腰椎穿刺を用いた髄液排除で改善の徴候がみられるかどうかの組合せに頼っているが、いずれも完全な検査法ではない」と述べている。
[2010年5月4日/HealthDayNews]