ビジネスにおけるゴールデンエイジは入社1~2年目

「ゴールデンエイジ」という言葉をご存じですか。
 「ゴールデンエイジ」とは、最近、スポーツ指導の世界で頻繁に使われるようになっている言葉です。
 この「ゴールデンエイジ」とは、あらゆる物事を短時間で覚えることができる年齢のことです。残念なことに、一生に一度だけしか訪れないと言われています。スポーツに関して言えば、9~12歳頃を指します。
 この時期には、理屈ではなく体感覚によって動作を学習します。体験を通じて驚異的な吸収力を発揮し、目覚ましく成長する時期なのです。
 ゴールデンエイジは、スポーツ技術の習得が最も早い時期なのですが、同時にこの時期に神経系の発達がピークを迎えます。筋肉が発達するのは中学生以降になりますが、神経系の発達はこのように非常に早い年代でピークを迎えてしまうのです。
 特にサッカー、テニス、ゴルフなどのスポーツで、世界で活躍するようなトップレベルの選手を育成するためには、コーチなどの指導者は「鉄は熱いうちに打て」という考えのもと、この時期に、選手にさまざまな動作のパターンを経験させ、スポーツにおける神経回路をひとつでも多く設けることが必要であると言われています。
 そのほかにも、この時期に、今後発達する筋肉を痛めないためにも正しいフォームを身につけさせる必要があります。ご存じのように悪いフォームや習慣はスポーツに限らず、一度身についてしまうと修正が極めて困難になるからです。
 この頃に、身につけたフォームや癖や習慣は、よい意味でも悪い意味でも、今後定着し続けます。基本動作を徹底的に体で覚えさせる時期なのです。
 また、精神面でも自我の発達とともに、競争心が旺盛になってくる時期です。同時に好奇心が旺盛な時期でもあるため、基本を忘れてアクロバティックな離れ業を試したがる時期でもあり、大人の悪い部分を真似しようとする時期でもあります。
 コーチなど指導者は「基本」の必要性を理解させ、反復練習によって、将来大きく成長するための基礎をつくることが大切です。今後求められる独創的なプレーの源になる「基本」を徹底させる時期なのです。
 さらに、正しいフォームだけでなく、プレーヤーとしてのマナーや心構えなどに関する教育もしなくてはいけない時期でもあります。この時期に学んだすべてのことが潜在意識に定着してしまうからです。第3回で紹介した2つの「リスペクト」を徹底的に教え込む時期でもあるのです。
 実はスポーツに限らず、楽器の習得、将棋や芸事の世界などでも、早い時期から専門的な教育を受けないと、プロレベルに達するのは難しいと言われています。
 このように、この時期をどう過ごすかによって、将来の活躍が大きく左右されることになります。ゴールデンエイジとは、非常に重要かつ繊細な時期なのです。
 私は、ビジネスにおけるゴールデンエイジは入社1~2年目だと確信しています。
 特に2年目というのは、社会人に限らず、生徒や学生にとってもターニングポイントになる年です。2年生は中学校や高校の3年生、大学の3、4年生と異なり、受験、進学、就職などの目標が間近に迫っていないため、多くの生徒が現実的な目標を失っている時期に当たります。また、学校生活に慣れてくるため、緊張感がゆるむ時期でもあります。
 大学生だと2年目で早くも留年が決まったり、2年目でサボったツケが回ってきて、その後に苦労したりする人が多いはずです。
 この2年目をどう過ごすか、どんな人と出会い、どんな教育を受け、どんな影響を受けるかで、その後の展開が大きく変わってきてしまいます。
 同様に入社2年目は要注意の年です。
 社会人生活にも慣れ緊張感は薄れ、要領を覚え始め、手抜きをし始めます。ここでいかによい習慣を身につけるかが、今後の成長のカギになります。
 本人の意識と会社側の教育で、入社2年目以降、大きく差がつきます。また、この時期にスポイルされた社員は、その後の修正が極めて困難になります。
 この時期までは、上司は心を鬼にして、厳しく部下に接する必要があります。辞められることを恐れてはいけないのです。
 また、ビジネスにおける「ゴールデンエイジ」こそ、最もプロセスを重視する時期です。努力することの重要性を理解させ、基本を大切にし忍耐力をつけさせる時期に当たります。
 スポーツでも勉強でもビジネスでも、共通して言えることは、基本ができている人は上達が早いということです。そして応用も利きます。新しいことを始めても、すぐに身につきます。この時期に「急がば回れ」の発想のもと、じっくりと時間をかけて基本を徹底的に教え込むことが大切です。
 また、この時期に、プロセスを無視して表面的に結果だけを出しているずるい社員、裏表の激しい社員、チームワーク意識のない社員をしっかりと見抜き、修正してください。これらの社員は、今後、ほかの社員のモチベーションに悪影響を及ぼします。
 この時期には、効率を度外視して、集中的にしっかりと時間をかけて教育、しつけ、育成をする必要があります。
 なぜなら、この時期を逃してしまうと、修正に多大な時間とエネルギーが必要になり、費用対効果を考えると、メリットがなくなってしまうからです。
 この時期に身につけたよい習慣は一生の財産になり、今後の自信にもつながります。
 ここで基本を身につければ、その後のテクニカルな教育の吸収度も大きく変わってきます。
 ただ、ゴールデンエイジの恐ろしいところは、一生に一度しか訪れないという点です。この時期を逃すと、二度目はありません。
 徹底的に型(基本)を学ぶところから独創性が生まれます。特にビジネスマンは、ある制約された型の中で独創性を発揮することが求められます。
 「優秀な社員」は、何も特別なことはしていません。基本に忠実なだけなのです。
 例えば、野球で打者が、いきなり一塁ではなく三塁に走りだしたら、それを独創性があるプレーと言うでしょうか。
 それは無知である
だけです。無知の恐ろしい点は、本人が恥ずかしい行為をしているという自覚がない点です。
 ビジネスは激しいコンタクトのあるスポーツと同じです。
 ルールや基本動作も学ばずにフィールドに出るなど、なめた行動に出ると、大怪我をします。ビジネスの世界で大怪我と言えば、「出入り禁止」や「会社そのものが干されてしまうこと」が例として挙げられます。
 特に入社1年目は、まず先輩社員が、彼らにじっくり教育をしてほしいのです。