一種の失恋っていうんですかね、
いやあ、失恋ですね、やっぱり、単純な。
会社の受付の娘がいて、
かわいいんですよ、
もちろん、みんなのなかでちょっと話題になってて、
僕、デートを申し込んだんですよ。
それで、まず水族館行ってきました。
寒くてもいいし、天気も関係ないんで。
食事してて、
彼女、銀座で夜の仕事をしていた人で、
まあ、それからいろんな、僕らサラリーマンとは
別世界みたいな話をいろいろ教えてもらって、
要するに、「諦めなさい、坊や」みたいな感じなんですよ。
若いんです、僕より。
僕も意地がなくて、それ以上突っ張ろうとは思わなくて、
それは大変でしたね、みたいな感じで、ひたすら聞いて。
すごい人生ってあるんですね、
今、彼女の恋人はニューヨークにいて、
半年に一回くらい、仕事の関係で日本に帰るんだって言ってました。
その人がいない間は、会社のお偉いさんと、関係があって、
知り合ったのはイスタンブールだとか言ってました。
それで、受け付け嬢にもなっているようで。
そもそも僕とのデートをオーケーするのがルール違反だと思いますけどね、
僕から見たら。
それにそんなこと話すことがおかしいですよね。
なんだか軽く扱われている感じで。
こんなの上に知られたら、飛ばされちゃいますよ。
こういう人の場合は、秘書課の奥にいてもらえばいいんですよね。
でも、あっちから見たら、食事代くらいでお話できるんだから、
得したでしょう、って感じらしいです。
大人の世界。
会ってやる、みたいな態度です。
表面的には笑顔だし、いろいろ誉めてくれたり、話のきっかけもつくってくれるし、
でも、それがプロの技ってことでしょう。
ワインが詳しくて、僕なんか全然知らないし。
お金がないとできないような趣味ばっかりで。
ヨットででたときの話なんか、分かんないわけだし。
いい経験でしたけど、
世の中ばかばかしいな、って感じもしました。
かわいい娘はたいていそんな感じかって思うと、
僕ら、たいしたことない同士で、余り物を分け合っているって言うか、
夢がなくなったって言うか。
それはきれいでしたよ。タイプだし。言葉がきれいなんですよ。
表情がタイムリーなんです。
僕にとっては芸能人みたいなもんですね。
参ったな。
怖かったけど、よかったです。