産業革命がかえた意識

採録 

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産業革命が、生活の深いところにもたらした影響を述べておきます。

 教科書に、こういう記述があります。
「…家族のあり方にも変化をもたらした。夫の賃金労働が主となり、妻の労働は補助収入のためとみなされ、賃金を得られない家事労働は低く見られるようになった」

 さりげなく書かれていますが、実に含蓄のある文章です。
 産業革命以前の労働というのは、農業が中心で、家族みんなで働きます。夫も妻も子供も一緒です。誰が何をしているのか、みんなが知っています。
 ところが、産業革命後の労働者の家庭では、夫だけが工場に働きに行く。何をやっているのか、妻や子供には見えません。家族のむすびつき方が、それまでとは全く違ったものになった。家事労働が低く見られるようになったということは、女性の地位が低くなったということです。これらは、産業革命以後の変化だといっているのです。

 人間の生活が時計によって縛られるようになったのも産業革命以後のことです。
 労働者にとって、出勤時間や労働時間など、時間によって一日が区切られ、拘束されるようになる。労働時間は自分の時間ではなく、労働時間が終わって、やっと自分の時間がはじまるように、時間によって生き方が分割されるようになる。
 現代に生きるわれわれも、細切れにされた時間の中で生きています。それ以前の人間は、時計などは必要なく、時間を気にせずに毎日を過ごしていたのです。

 家族関係や時間意識の変化は、歴史の年表に載るような事件ではないので、あまり意識しません。しかし、当たり前と思っている常識や感覚も歴史の中で作られたものだということを知っておくことは大事でしょう。