認知行動療法、べてる式

DVD+BOOK
認知行動療法、べてる式。

伊藤 絵美,向谷地 生良 著
《評 者》松王 強(財団法人河田病院(岡山市)/医師)

形から入れ!中身は後からついてくる!!

認知行動療法が進化した姿
 浦河べてるの家に関心のある者にとって役に立つ新しい本が現れた。伊藤絵美+向谷地生良著『認知行動療法、べてる式。』である。この本はべてるの家で行われているさまざまなことを,心理療法の一つである認知行動療法の視点から解説する。ひとことで言うと,べてるで行われていることは認知行動療法が進化した姿であり,われわれは認知行動療法に関してべてるから多くのことが学べるというのだ。  伊藤氏は「長いまえがき」のなかでこう書いている。
《べてる的活動は,この浦河でなければ,向谷地さんでなければ,べてるの当事者でなければできないものではないはずだ。……しかしべてる的活動を,どういう考え方に基づき,どういうやり方でやったらいいか,それを示さなければ,「べてる的にやればよいのだ」と言われても,当事者や周囲の人は困ってしまうだろう。私たちの専門とする認知行動療法が役立つとしたら,この点においてなのではなかろうか》

「内面より形」のすがすがしさ
 たしかにこのDVD付きの解説書を読めば,だれでも形だけは当事者研究やSSTを始めることができると思う。いま「形だけは」と書いたが,否定的な意味で言っているのではない。なぜなら向谷地氏は『精神看護』2007年3月号の「技法=以前」という連載でこう書いているからだ。「形から入れ」と。そして「中身はあとからついてくる」と。

 そうか,形だけでいいんだ。なんだか希望がわいてくるなぁ。練習すればなんとかなりそうだし。精神科領域なのに,べてるは心の中に踏み込まないからいい。メンバーの松本寛くんも「頭のなかでいくら人を恨んだり,ぶっ飛ばしたりしても大丈夫。おこないさえしなければいいんだよ」と言っている。
 この「内面より形」という一見逆説的な表現は,当事者だけでなく私たち専門家の心をも軽くしてくれる。いかにもべてるらしい不思議な言葉だと思う。

いつの間にか「べてる的な精神」が……
 本書でも詳しく紹介されているSST(Social Skills Training)について向谷地氏は,「じつをいうと,学生時代から私はこの手の“アクション・メソッド”が大嫌いな人間である。こんな子どもだましのようなロールプレイが,人のかかえる人生課題の解消に役立つはずがない」と思っていたそうだ。

 私も長い間,なんでSSTなんてものをするのか,いまひとつ理解できなかった。そして,「本やビデオを見たり研修に参加すれば,見よう見まねでべてる的な活動を始めることは可能かもしれないが,地域全体にべてる的な考えが浸透しなければ成功しないはずだ」と思い込んでいた。
 しかし,『認知行動療法、べてる式。』を手にした今はこう思う。形だけを真似ることによって,「べてる的な精神」までがいつの間にか身についていることに驚くときがくるかもしれない,と。