一線を越えて

<最初の赴任地で中学生同士の校内暴力事件があり一人が死亡した。病院で関係者が悲嘆に暮れる場面に報道陣は自分一人だけ。校長先生の話を聞いた旨の報告を社に入れると、写真は撮ったか、と問われ、とても撮れそうにない情況であることを報告するものの、「バカ、おまえプロだろ!という言葉を浴びせられる。新人記者である自分は験されているような気になり、覚悟を決めてシャッターを押した。先生たちから刺すような視線が向けられるなか自分は一礼して立ち去るしかなかった。これは新聞記者としてハードルを一つ超えた話とも言いうる。しかし、常識を一歩踏み外したことも間違いない。そんな経験をしながらだんだん均されていく。翌年には漁船の転覆事故で救助された船長が甲板員を失って男泣きする姿をためらうことなくカメラに納めるようになっていた。心の中で自分はプロだからとつぶやきながら。ある種、オウム真理教の信者が一線を越えていった経過に似ている。> ひとりの記者(読売新聞・丸山謙一記者)の述懐

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コメントはいらないだろう。