獣医というのがやってきた
わたしには虫歯があってネコを飼ってるから、
歯医者と獣医は歓迎だというと
照れていた。
飲んでいるうちに寝たのでよく覚えていないが、こんな話。
僕は大規模酪農の獣医ではなくて、
小規模酪農の獣医でした。
今度獣医畜産学部の教職につきました。
熊本県で仕事をしていました。
おじいちゃんとおばあちゃんと、玄関に牛が一頭、
なんていううちがたくさんあります。
それで国から補助金をもらって、
毎日乳絞りをして暮しを立てています。
搾乳機は何十万円もするので、買えません。
毎日二回乳絞りをしないと死んでしまいます、極端に言って。
そのように進化させたんです。特殊化させたと言ってもいいです。
だから、おじいちゃんおばあちゃんも年中仕事です。
絞ったらすぐに出荷です。
乳牛は2年半くらいでおっぱいを出すようになります。
それから10年くらいは働いてくれますから、大事な家族です。
怒ったり泣いたり甘えたりします。
僕が呼ばれるのは、乳腺炎と言う病気のことが多いです。
おっぱいが大きすぎて、うっかり自分のおっぱいを足で踏んでしまうんです。
そこからばい菌が入るわけです。
点滴をしたりして抗生剤を入れます。
何とか持ちなおしてくれればいいんですが、
だめなときは、足をがくっと折ってしまいます。
するともう自分では立ち上がることができません。
体重は500キロくらい。
お相撲さんの大きい人で200キロ超えるくらいだと思いますから、
お相撲さん二人半分を四つの足で支えています。
足が弱って一本を折り曲げると、自分では立てないし、
人間が補助してもだめです。
牛肉用にもできないので、
残酷な言葉ですが、焼却します。
黒牛だと1トンくらいあります。
牛は泣きますよ。涙を流します。
僕が注射を持って近付くと、
オスの牛は涙を流して泣きます。
メスはそんなことはないです。
オスは泣き虫なんです。
豚も鳴きます。
豚を出荷するとき、電気ショックで気絶させて、
そのあとで血液を抜きます。
気絶するときに声を出します。
泣いているんだと思います。
そのための部屋は、普段いる部屋とは別にあって通路でつながっています。
通路の向こうから声が聞こえるので、
みんなつらそうです。
ああ、そうですね。ドアをきちんと閉めて、
声が聞こえないようにすればね、
音楽を流す?
なるほどね、分かります。
でも、食用の動物はこんな風です。
イベリコ豚とかもち豚とか宣伝してますよね、
いろいろあるんですが、肉自体としてはあまり変わらないです。
高いのは宣伝費です。
霜降り牛は少ししか取れませんから、やはり高級で、
酪農家も、獣医も食べません。
出荷するものだと思っていますから。
何かの機会に食べてみましたが、脂が強すぎる感じでした。
たくさん食べるものではありません。
でも、東京で食べると実際、下にとろける感じですから、
何でしょうか、調理法が違うのか、東京まで運ばれる間に変化が
起こるのか、よく分かりません。
こんな話でいいんですか?
じゃあ続けます。
霜降り肉を出荷する前には、
牛を陽に当てないで、あまり動かさないようにします。
陽に当てませんから、ビタミンの欠乏になって、目がよく見えなくなります。
アルプスの少女ハイジのように自由に動き回っていたら
霜降りになんかなりませんから、
じっとさせて、ただ食べさせます。
タイミングを見て、出荷です。
かわいそうといえばそのとおりです。
僕も最初はショックでした。
不自然だし残酷ですが、
でも、食用というのはそういうことです。
妙にきちんとしてて、清潔そうな感じの人だった。
でも話がおもしろくないので眠かった。
牛が子供の頃はオスが弱いんです。
なにしろ無理にたくさん食べさせますから、おなかを壊すんです。
いつも下痢をしてるような感じで。
お相撲さんに無理に食べさせて太らせるようなものです。
そんなメタボの牛を食べて今度は人間がメタボになっているわけですから、
おかしなものです。
人間はメスの方が若いときも年取ってからも丈夫ですが、
牛は歳をとるとメスの方が弱いんです。
搾乳に特殊化しているので、弱いんですね。
僕は日本の食糧自給率を上げないといけないと思っています。
40パーセントね、よく知っていますね。
でも、それは数え方にもよるんです。
カロリー換算で40パーセントといわれているんですが、
国産牛の飼料は輸入だったりとか、計算の仕方がいろいろあります。
原油の問題で騒いでいますが、
食糧はもっと大きなパニックになるでしょう。
正直言って、牛肉はエネルギー能率が悪いです。
めざしを食べたほうがカルシウムも取れて、ずっといいたんぱく質なんですがね。
60億人とか70億人を養うときに、貧困が一番痛切に感じられるのが、
食糧ですよ。
特に、子供に食べさせるもの。
これで戦争が起こります。
酪農家は、濃い牛乳なんて飲みません。低脂肪乳だけ。子供にも。
親としては、子供には高脂肪乳をたっぷり上げたいんですが、
なにしろ商品ですから。
そうですか、最近はわざわざ低脂肪乳を買うんですか、
メタボリック対策で。あの水みたいな牛乳をわざわざね。
そうなんですか、エビアンは牛乳よりも高いんですか、東京では。
僕は獣医の中でも、エコ関係を研究していて、
それが有望だというので、大学に呼ばれました。
研究は、牛のゲップがどれだけCO2を増やすかというものです。
世界中の牛がゲップを一日に何回すると思いますか?
その中にどれだけCO2が含まれているか、ひとつ数えて対策してみようというわけなんです。
反芻動物ですから、ゲップは多いんです。
そんなわけで、よく寝た。
こんな人が生きてるんだから、
私だって生きていてもいい、そう思えた。
でも牛や豚や鶏や養殖の魚は、もっと真剣に考えないといけないと思った。
無農薬とか、抗生剤なしというのは、特定の期間にないというだけであって、
そのほかの期間には使ってもいいのだそうだ。
多分、出荷するまでに影響が消えればいいじゃないかという考えらしい。
でも、畜産業のおかげで多剤耐性菌が増えているのではないかと疑われているのたし、
疑いを晴らしてほしい。
本当はベジタリアンが正解のようだけれど、そんなに料理のレパートリーがない。
先日、焼き魚に添えてあった、ハーブ系の葉っぱがなかなかおいしかった。
店の人に名前を聞けばよかったが、忘れた。
ルッコラと同じくらいの大きさ。
ベジタリアンのための食材と食事についてもっと
大々的に研究したほうがいいのではないかと思った。
それと小魚の利用。
大きな魚は水銀とダイオキシンとカドミウムなんていいますね。
特に回遊するものだと、中国沿岸の水銀やインド沿岸のダイオキシンをタップリ蓄積しているわけです。
悪くすると、複合汚染になりますが、
よくすると、毒をもって毒を制す、そんなこともないとも限りません。
楽天的にいきましょう。
まさか。