エイズ治療法が進み生存率が高まったが、国内感染者は増え続けている。
2010年1月6日 提供:毎日新聞社
◆エイズ 治療法が進み生存率が高まったが、国内感染者は増え続けている。
◇早めの検査で発病予防
◇保健所が匿名、無料で実施 診断後の余命、40年に
かつては発病したら死亡する病気といわれたエイズ(AIDS=後天性免疫不全症候群)。最近は治療法が進み、生存率が格段に高くなったが、国内の感染者は増え続けている。全国の保健所で、匿名で無料の検査が受けられるため、厚生労働省は「早く検査して治療すれば、発病もかなり防げる」と呼び掛けている。
全国の感染者の約3分の1は東京都で発生している。東京都南新宿検査・相談室(渋谷区、予約番号は03・3377・0811)では、電話で予約し、指定された日に行くと血液検査が受けられる。名前を言う必要はなく来訪時に自分の選んだ4ケタの番号を書くだけ。検査の説明から採血までの時間は10-15分程度。結果は約1週間後に分かり、本人が直接行って聞く。電話での回答はしていない。担当の看護師は「検査でHIV(ヒト免疫不全ウイルス)が見つかった人(陽性)には病院も紹介する」という。
同相談室は平日(15時半-19時)と土日(13時-16時半)に予約を受けており、全国の施設で最多の年間約1万1000件の検査を実施。陽性者の数は08年96人、07年134人で、ほとんどは男性だ。陽性者と話し、感染拡大防止に努めてきた担当医師は「予防のためのカウンセリングが大事」と、エイズを正しく理解する必要性を強調する。
国内のHIVの新規感染者は08年1126人、新規のエイズ患者は431人。感染者・患者の合計は1557人で過去最高だ。保健所の検査で陽性が判明したケースは全体の約3分の1。残りは免疫の衰えで起きる肺炎やリンパの腫れなどの症状が出てから病院で発見されている。財団法人・エイズ予防財団(東京都)は「発病前に分かれば、治療しながら仕事もできる」と早期の検査を勧める。
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一方、治療は劇的に進んでいる。90年代前半までは不治の病とされたが、96年、HIVの増殖を抑える複数の抗ウイルス薬を併用する治療法(HAART療法)が有効と確認されて以降、死者は劇的に減った。
国立国際医療センター(東京都)の岡慎一・エイズ治療・研究開発センター長によると、25歳でエイズと診断された場合、90年代前半までは平均で約7年しか生きられなかったが、いまは約40年の余命が期待でき、健康な人の約50年と比べ、10年の差に縮まった。
しかし、課題もある。一つは、中性脂肪の上昇など脂質代謝異常、肝臓や腎臓の機能障害、体形のゆがみなどの副作用。もう一つは、薬が効きにくくなる耐性ウイルスの発生だ。
こうした課題に対し、昨年9月、プリジスタナイーブ(一般名・ダルナビルエタノール付加物)が新たに治療薬に加わった。他の薬と併用するが、1日1回の服用で済む。副作用が少なく、耐性ウイルスにも強い。
現在、国内では20種類以上の薬があり、薬の新たな組み合わせで治療法はさらに進んでいる。岡さんは「血管内からウイルスを排除すれば、血管障害などの副作用も軽くなる。思い当たる人は早く検査を受けてほしい」と話す。
医療現場では、専門医を除き、エイズに対する認識は低い。専門医で組織した「HIV感染症治療研究会」(東京都、ファクス03・3746・9147)は09年12月、「HIV感染症『治療の手引き』」(47ページ、第13版)を発行、各種治療法や医療費助成制度などを解説している。【小島正美】
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◇エイズ
HIVがCD4といわれる免疫細胞のリンパ球に感染して、免疫機能が徐々に破壊されていく病気。初感染時に発熱や発疹(ほっしん)などの症状が表れるが、数週間で消え、以後、自覚症状のない時期が数年-10年程度続いた後に発症する。原因の約8割は性的接触で、他は感染者の使った注射器を通じた血液感染や母子感染など。世界ではアフリカやアジアを中心に約3300万人の感染者がいる。通常の生活で患者との会話、握手、くしゃみでは感染しない。