三吉野の 色珍しい草中に
迷いこんだる蝶ひとつ
想い染めたが恋のもと
たとえ焦がれて死すればとて
鮎に愛もつ鮨桶の
しめて固めた二世の縁
二つ枕の花の里
「義経千本桜」享保四年(1747)鮨屋の段より
釣瓶鮨屋の一人娘お里が、今宵祝言と楽しみにしていた手代の弥助が平惟盛(これもり)卿と聞いて、涙とともに口説く部分を取った唄。
「過ぎつる春の頃、色珍しい草中へ、絵にある様な殿御のお出で、惟盛様とは露知らず、女の浅い心から、可愛らしい、愛しらしいと想い染めしが恋のもと。父も聞こえず母さんも、夢にも知らして下さんしたら、例え焦がれて死すればとて、雲井に近き御方へ、鮨屋の娘が惚れらりょか。」