ホリエモン以上に詐欺的なベンチャーの内情
注意!:以下の文章は、全くの創作であり、フィクションです。
実際の人物・団体等とは、一切関係がありません。
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ぼくは、堀江さんとはあまり面識がない。ただ、仕事で会って、実務的な打ち合わせをしたことぐらいはある。だから、ぼくの名刺ボックスには、堀江さんの名刺が入っている。ライブドアの別の取締役の名刺も。なんか意味もなく怖いから、シュレッダーにかけたいというような非合理な気分になる。(← たかだか、名刺もってるだけで捕まったりしないって(笑)) でも、そう考えてしまう自分は、裏切り者的で、なんかやだ。彼がやったことが正しいと思ってるわけじゃない。彼を庇うつもりも擁護する気もまったくない。思う存分司法の場で裁いてくれ。ただ、ちょっと風向きが変わっただけで、手のひらを返すようなヤツって、サイテーだとおもうのだ。実際、彼はすごく頭の切れる人物だ。実際に具体的なビジネス案件を彼と討議してみると実感できる。性格は悪いけど。はっきりいって、ムカツクやつだし、個人的には嫌いだけど。外部の人間の目の前で、部下をコテンパンにこき下ろすようなヤツなんだ。
こんなことやればすぐに捕まるということすら分からないのはバカだからだ、とおもう人もいるだろう。まあ、ぼくもそう思わないでもない。読みきれてないとしか見えない。でも、だからといって、彼の頭が切れないと決めるけるのは愚かだ。彼をバカよばわりする人のほとんどは、彼よりずっと頭の回転が鈍い。状況認識能力も、判断能力もはるかに低い。ただ、彼ほど勇気がなく、彼ほど有能でなく、彼ほどクリエイティブでなく、彼ほどチャレンジングじゃないから、結果として、そもそも捕まるようなことをしでかす能力がない。つまり、ほとんどの人は、彼のような悪巧みをする能力があるのにもかかわらず、その気高い道徳心からしないのではなく、単に、その能力がまるでないから、それをしようという気すら起こらないだけだろう。
これは、何千万円もの借金を抱えている人を、貧乏人といって嘲笑うのに似ている。その人は、何千万円もの借金ができるほどの社会的信用力があったのだ。ほんとうの貧乏人は、信用がないから、そんな何千万円も貸してくれる人はいないって。あなた、銀行に行って、お金を貸してくれるように頼んでみなよ。あなたという人間の価値が何円になるか、銀行が査定してくれるから。たいていは、落ち込むほど安く見積もられるから。
また、堀江さんのことを、詐欺師だの錬金術師だのといって悪者と決めつけている人がいるが、そういう人は自分は彼よりもずっと善良だと思っているのだろうか。もちろん、彼は詐欺師だし、悪だ。ただ、「彼と同じ能力をもち、彼と同じ環境におかれて、まったく詐欺的にも悪にもならないという人間はかなり少ない」ということは、ほとんどの人が想像すらできないだろう。
堀江さんだって、善になりたかったさ。詐欺なんかしないで、正々堂々と人々に喜ばれるサービスをつくって、それでまっとうにビジネスをして成功したかったんだ。むしろ、普通の人以上に、はるかに理想に燃え、夢を語っていた。なんでそんなことが分かるのかって?
ぼくのケータイには、六本木ヒルズにあるいくつかのITベンチャー会社の経営陣の電話番号が入っている。ぼくが、ヒルズで彼ら経営患部^H^H幹部と行った議論時間の合計は、1000時間は優に超える。
六本木ヒルズを中心とした、日本のITベンチャー経営層は、とても狭い村だ。経営幹部のほとんどが、個人的つきあいで結ばれている。だれかが何かをすれば、女子校での噂話よりも速く広がる。毎週経営会議で各アジェンダを議論するとき、他の会社の事例がしょちゅう引き合いに出される。それは、MBAの教科書にのっているような、殺菌消毒されたケーススタディーを、スーパーで、きれいに洗われ、形を揃えられ、蛍光灯に下に陳列された野菜だとするなら、畑の中からいままさに掘り起こしたばかりの、泥つき、虫つきの、形の不揃いな野菜だ。とてもじゃないが、そのままでは外には出せないような生々しいものばかりだ。
なぜ、泥つき野菜ばかりが、経営的意思決定の際に参考にされるのか? いくつか理由がある。まず、第一に、 MBAの教科書にのっているようなビジネスモデルや経営手法のうち、参考になるものはもちろん多いのだが、参考になり方が、本質的な部分でしかないからだ。本質的な部分で参考になるなら、それで十分じゃないか、と思われるだろうが、実際には、本質的な部分で同じビジネスモデルが、具体的なディテールの部分で勝敗を分けてしまうのだ。MBA的な意味での本質は、はずしちゃいけないけど、だからといって、それで条件が満たされるというものでもないのだ。
なぜか?
ソフトウェアシステムと同じで、ビジネスモデルもカオス的性質があり、ディテールの部分に神が宿る。具体的なディテールの部分が参考にならない事例は、事例そのものが参考にならないことが多い。だから、よく、アメリカでMBAをとってきた自信満々の新人が、MBAで習った事例を用いて、ベンチャーの経営陣にビジネス提案をして、コテンパンにけなしまくられて、社長はビジネスの本質が分かっていない、と言って辞めたりすることがよくある。
もう一つの理由は、たぶん、あなたのご想像どおり、MBAの教科書にでてくるケーススタディーが、きれいごとだからだ。世の中のほとんどの人は、「価値あるサービスを消費者に提供できた企業が成功する」と思っているだろう。また、ベンチャーが成功するのは、「革新的なサービスを消費者に提供できたからだ」と思っているだろう。これは、完全に間違っているわけではないが、正しくもない。少なくとも、そういうナイーブ(世間知らず)な考えで起業すれば、ほぼ間違いなくスッカラカンになる。
現実には、「価値あるサービスを消費者に提供できた企業成功する」のではなく、「価値あるサービスを消費者に提供するビジネスを「独占」した企業が成功する」のだ。もっというと、「市場を独占支配することで、消費者から強制的にお金を徴収する構造をつくった企業」が成功する。
そして、恐ろしいことは、これは、一部のあくどい企業の話じゃなく、ほぼすべての企業がそうであるということだ。六本木ヒルズの価値観を、一般化するなって? あのね、六本木ヒルズのITベンチャーは、ITだけでビジネスが成立するわけじゃないんだよ。オールドエコノミーの企業との、取引、アライアンス、共同ビジネスもとても多い。だから、旧産業の人たちが、どのようなスタイルでビジネスをしているか、身に沁みてよーく分かっている。実際に彼らと仕事をしている人ならみな知っているが、オールドエコノミーの方々のビジネスのやり方の方が、むしろ醜悪なことも多い。
もちろん、醜悪でない、基本的には善良な経営者もそれなりにいる。でも、善良な経営者って、独占や寡占の上にあぐらをかいているケースがとても多い。あるいは、小さなニッチなので、他の企業がそのニッチ市場にわざわざ乗り込みたいという動機が弱く、比較的無風地帯のニッチ市場でビジネスしている中小企業もよくあるパターンだ。彼らは、とくにお金に困っていず、脅かされてもいない。だから、がつがつしないだけだ。しかも、表面的に善良に見えるから、善良とはかぎらない。みんなに人格者と思われているオールドエコノミーの大企業の取締役が、カジュアルな席で、いかに自分たちがそれを独占するかって、そいういう話をするのを何度も聞いた。
もちろん、基本的には、善良でないと、ビジネスはうまくいかない。しかし、善良にやると、やはり上手くいかないのだ。ビジネスをやっていると、いつもその矛盾に悩み続ける。なぜ、善良でないとビジネスが上手くいかないかというと、あくどいことするヤツだと思われると、取引相手が警戒して、腹の探り合いばかりになり、交渉にコストがかかりすぎるからだ。いつ裏切るか分からないやつとビジネスしたい人なんてまずいない。いつ警察に捕まるか分からないやつと関わり合いになりたい経営者なんて、まずいない。だから、どの経営者も、それはそれは真剣に法令を遵守しようとするし、経営会議では、いつも、「それは仁義に反する。」「それはビジネスモラルに反する」という台詞が頻繁に出される。むしろ、一般人の何倍も、法律にも道徳にも気を使う。それは、ヒルズのITベンチャーだけでなく、オールドエコノミーでもどこでも同じだ。
一方で、いくらすばらしいアイデアを出そうが、革新的なサービスを開発しようが、それはすぐにまねされ、コピーされてしまうという現実がある。他社にまねできないような革新的なサービスを開発すればいい、というのはきれいごとだ。人々にとって価値あるサービスは、たいていはマネできる。他社にマネできない技術やノウハウというが、実際には、そんなものはめったにない。あったとしても、それは宝くじ的なものであり、宝くじにあたることを前提としてビジネスモデルを組み立てるほど愚かなことはない。
それだけでない。後発の、より資金力や集客力のある企業が、同じサービスをはじめれば、資金力のないベンチャーなんて、あっと言う間に破れ去る。
こんなことを言うと、マイクロソフトもgoogleも昔はベンチャーだった。だから、ベンチャーが成功できない、というのは、いい訳にすぎない、という人がいる。また、実際に、新興市場にたくさんベンチャーが上場しているじゃないか、という人がいる。しかし、どちらのロジックも完全にインチキだ。
マイクロソフトもGoogleも、本質的には、ある特定の市場を独占もしくは寡占しているから、儲かっているにすぎない。そして、彼らが既存の巨大プレーヤーのすきをついて独占を行った手口は、いまとなっては広くあまねく知れ渡っており、だれしもが、できるならその手口をまねしようと隙をうかがっているし、また、既存の巨大プレーヤーも、その手口で新たに独占させないように、警戒している。みんな次のMS、Yahoo、Googleになりたいし、次のMS、Yahoo、Googleにならせまいとしているのだ。ある人は、それを、「マイクロソフトは誰だゲーム」だよね、と言っていた。そんな警戒されまくった状況で、だれがMS的な独占をできるというのだろう?
そして、新興市場のベンチャーは、その財務諸表やIR資料をきちんと分析・理解すれば、その時価総額の数十分の1の価値もない企業がほとんどであることが分かる。ただ、ヒルズIT村の外部の人間は、だれもそれをやる情報とスキルをもたないというだけの話だ。それは、ヒルズのIT村の公然の秘密だ。
今回のライブドアショックで、リバ狙いの勝ち組個人投資家のインタビューが笑えた。ある個人投資家は、「みんな、価格だけを見て買っているから、下がり出すとどこまで下がるか分からなくなって、怖くなってパニック売りしちゃうんだよ。ぼくは、企業の価値を見ているからね、その価値以上に下がった株があると、安いと思って買うのさ。」そして、紹介された新興市場の銘柄を見て、オイラは、椅子からずり落ちそうになった。いんちきプレスリリースをだしまくって、株価をつり上げまくっている、実質的にはライブドアと五十歩百歩の企業の銘柄だったからだ。実名を出すのは、問題がありすぎるので、出せないけど。
しかし、ほんとに一部の例外をのぞき、ほとんどすべてのITベンチャーがインチキプレスリリースをだしまくって、株価をデタラメに水膨れさせてるのに、なぜ、警察に捕まらないのか?
それは、それがインチキであることを証明できないような、プレスの打ち方をしているからだ。たとえば、○○○という電子決済プラットフォームが、いま、まさに急速に普及しつつあり、世間の注目を集めていたとする。そして、そのベンチャーが、そのプラットフォーム上で、画期的な新技術を開発し、画期的な新サービスを開始しました、というようなプレスリリースが打たれる。しかし、その技術やサービスは画期的かもしれないが、その基盤となるプラットフォームが世間の注目を集めている段階では、まだ、普及しはじめの時期であり、最初のうちは、スケールメリットがきかず、赤字垂れ流しが続く。そして、そのプラットフォームが十分に普及し、やっとこさ単黒か、というころには、そのコピー商品があふれていて、値崩れしている。それどころか、政治力と資金力を兼ね備えた大手が参入してきて、資金力にものを言わせて、テレビCMをうち、Yahooとアライアンスし、とにかく、大艦隊で攻めてくる。で、結局、最初のベンチャーがだしたサービスは、いつのまにかひっそりと開店休業状態になっており、減損会計で、目減りしたソフトウェア資産として、財務諸表からも靜かに消えていく。
なんで特許をとらないのかって? 画期的なアイデアと、画期的な技術に基づく、画期的なサービスなら、特許にならないはずはないだろうって? それが幻想なんだよね。アイデアのすばらしさと、特許になりやすさは、まったく関係がないんだ。
まず、ほんと知らない人が多くって困っちゃうのだが、「アイデア自体は特許にならない」んですよ。特許になるのは、そのアイデアを実現する装置の「実装方式」だけなんですよ。そして、画期的なアイデアというのは、たいていは、それを実現する複数の実装方式があるものなんだ。だから、ライバル企業が、アイデアだけぱくって、別の実装方式で実装すれば、まったく問題にならない。いくらでもパクれる。じゃあ、そのアイデアを実現する実装方式をすべて特許にとればいいだろうって? 実際には、それはほとんど無理なことが多い。実装方式なんて、たいていの場合、無数にあるし、それに、どんなものでも特許になるというものではない。新規性がないと、特許にはならない。そして、アイデアやサービス自体は、ユーザ的に、あるいはビジネス的に画期的で新規性があっても、その実装方式は、ごく普通のソフトウェア構造の組み合わせでしかなく、単なる組み合わせは、特許にはならない。
しかも、これらすべてをクリアして、特許をとったとしても、ライバル企業がその特許に抵触していることを証明できないければ、そんな特許はないのと同じだ。特許というものは、そもそも、実装方式についてのものだが、実装方式は、のうち、特許にとれそうな部分が目に見えるとはかぎらない。ライバル企業が、その特許に抵触していても、それが目に見えない部分であれば、それを裁判で証明するのは、とてつもなく困難だ。まだ、特許に抵触しているかどうかも分からないうちに、強制捜査に入れるわけでもなんでもない。特許というのは、特許をもっている側が、相手が特許を違反していることを証明しない限り、まったく効力をもたない。
さらにやっかいなのは、上記すべてをクリアして、最高の特許をとったつもりでも、それでもまだだめなんだ。どんなすばらしい特許であっても、たいていの特許は、金さえ出せば、つぶせる。ぼくは、その現場に立ち会った人間から直接話を聞いたことがある。ある大企業が、新サービスを立ち上げることになった。そのサービスは、すでに特許がとられまくっていた。そこで、世界中からその技術に詳しい弁護士、学者、エキスパートを札びらで頬をひっぱたいてつれてきて、何億円もの金を使って、世界中研究室という研究室にメールを書きまくって、電話をかけまくって、どっかのすごーくマイナーな論文のかたすみにでも、そのその特許と類似した技術・仕組みに関する記述が、その特許以前に公表されてないか、探させた。それが見つかれば、その特許を無効化できるからだ。なぜなら、すでに公知となっている情報では特許はとれないからだ。そうして、すべての特許がつぶされた。
もちろん、決定的な特許がとれることはある。あるビジネス的な価値のある商品を、ある特定の実装方式でしかつくることができないような場合で、その実装方式自体に新規性がある場合で、しかも、それが、目に見える部分の場合で、かつ、世界中のどんな論文のどんな隅っこにも、一切それがかかれていない場合だ。でも、画期的なアイデアを思いつくこと自体が、それほど多くないのに、その思いついたアイデアの実装方式が、たまたまそのような特許をとりやすい構造であることなど、宝くじにあたるような確率になってしまう。とくに、ITビジネスでは、この傾向が顕著だ。ITシステムなんて、実装方式に新規性があったとしても、たいてい目に見えない裏側の部分だ。
そして、偶然、そのようなすばらしい特許をとった人が、テレビで紹介され、そういうことは、よくあることだと人々が思い込む。ついでに、ユーザにとって価値のある、画期的な新サービスのプレスリリースをだしまくっている、成功したベンチャー会社の多くが、そのような特許をもっているのだと、思い込む。もちろん、多くののITベンチャーは、実際に特許を出願し、プレスリリースに「特許出願中」と書く。しかし、それは、完全にこけおどしだ。99.99%の確率で、あるアイデアを実現するための、たくさんある実装方式の一つを特許にとったにすぎない。また、裁判で侵害を証明するのが現実的でない特許だ。そして、一般に人たちの通念とは異なり、個人投資家だけでなく、機関投資家も、いや、その分野の専門家と称するアナリストですらも、そのこけおどし特許に、あっさり騙される。もしくは、騙されたフリをする。その方がとくな場合はね。もちろん、後日それが問題となったら、まさか偽装があるとは思いませんでした、私こそ被害者ですって証言するでしょうね。
これは、特許以外の、すべての参入障壁も、似たようなものだ。たとえば、うちは、ケータイのオークションサイトの最大手であり、会員数が、倍々ゲームで増加増加しており、そのビジネスの潜在規模はどのくらいで。。。。と発表するベンチャー企業の時価総額は、本来の価値の何十倍にも膨れ上がっている。みんな、将来的にケータイオークションマーケットが巨大化したときに、とてつもない収益を手にすることをイメージして、株価をつけているけど、実際には、そのベンチャーがその収益を手にする日は訪れる可能性は非常に小さい。このビジネスが崩壊するパターンなど、いくらでもあるが、たとえば、Yahooが参入してきたら、あっと言う間に、二番手になり、しばらくは、「二番手、三番手でも十分にビジネスになる」といいながら、しばらくは実際にしょぼい利益を出し続けるが(マーケット自体が急速に拡大し、network externalityからくるマイナス効果を相殺し、なおかつ、余剰が出るので)、ある時点で、network externalityが臨界点に達し、かつ、マーケット自体の拡大速度が減速すると、一番手以外は、めちゃくちゃしょぼいビジネスで落ち着く。いまの時価総額での1/10以下(もっと少ないかもしれない)の価値で落ち着くわけだ。それまでにえられると予想される配当をDCFで逆算しても、その株価はまったく説明がつかない。いや、そのオークションサイトのユーザは主にF1層であり、われわれはそのユーザのココロをつかめるような、他社にマネのできないノウハウをもっていますとか、いや、うちはケータイキャリアと共同出資で会社を設立していて、すでに独占的利権を確保してますから、とかいろいろいう事はいうし、みんなそれに騙されるんだけど、他社のまねできないノウハウなんて、そんな簡単につくれるようなもんじゃないから。通信キャリアだって、他のでっかいケータイポータルの方が圧倒的に優勢になってきて、苦しくなってきたときに、その後発の大手サイトがより有利な条件を提示すれば、あっさりそのジョイントベンチャーごと切り捨てるってば。
こうやって、一つずつ崩壊シナリオを説明していくと、「いや、その経営者は、若くて優秀だから、株高を利用して、増資して資金を調達し、その資金を使って、画期的なサービスを開発し続けるはずだ。そして、そのうちどれかはヒットするだろう。みんな、それを期待している。」とか言う人もいる。そして、それはたしかに一理ある。そして、それが、現在の新興市場の株価を説明する、唯一の説明なんだ。つまり、ITベンチャーの時価総額が大きいのは、その時価総額の大きさを利用して、優秀な彼らが画期的な「何か」をやってくれるから、というそれだけの理由だ。そう考えると、楽天やYahooのようにすでに独占がほぼ成立しているような企業は別として、ほとんどのITベンチャーは、ライブドアと似たような状態にある。
ここで、もっとも重要なのは、それらITベンチャーが、虚業をやっているということではない、ということだ。むしろ、旧態依然とした業界に、つぎつぎに新しいサービス、新しい手法、新しい価値を創造しつづける、その豊かな才能と斬新な発想で、社会に大きく貢献しているということだ。彼らは、たしかにわれわれの未来を創造しつづけている。それは、彼らと直接話してみれば、とてもとてもよく分かる。証券アナリストが彼らのところを訪問して、今後のビジョンを尋ねると、彼らは、常人ではとても思いつかないような、すばらしい見識と洞察とアイデアを振りまく。アナリストたちは、それにすっかり心酔し、彼らこそが、まさに未来の創造者だと確信する。そして、その確信は、極めて正しいことが多い。
しかし、彼らが未来を創造できるということと、彼らの会社が、利益を出せることは、まったく別のことなのだ。彼らが画期的サービスを出しても、他社がそれをパクって、実際の利益は、別の会社がもっていくのだ。しかし、アナリストたちは、そこのところの仕組みを見抜けない。あるいは、見抜いているのかもしれないが、見抜けないフリをする。この構造を、知っていて、黙っている。
熱く理想に燃えた、才能と創造性にあふれた起業家が、こういう構造に放り込まれて、何年か揉まれると、どう変質していくか、想像がつかないだろうか? いくら優れたアイデアを出しても、画期的サービスを世に出し続けても、パクられまくって、利益に結びつかない。そして、こけおどしのプレスリリースを打ち続けると、面白いように、新聞やテレビに取り上げられて、ちやほやされる。そこで、自分の経営信念や理想を語る。ビジョンを語る。みんなにもてはやされる。株価は面白いように膨らんでいき、ホンモノの資本力を手にすることができる。資本力さえ、オールドエコノミーに負けないぐらいになれば、想像力でも実行力でも負けはしない。ようやく、自分のやりたいビジネスができる。
頭の切れる人間が、こういう状況に放り込まれたら、どう行動するかは、自明だ。ここで第一にやるべきなのは、インチキプレスリリースをうちまくって、とにかく時価総額を膨らます事だ。資本がないと、なにも始まらない。
つまり、マジメにいい商品、いいサービスを、開発する、という、世の中への貢献行動は、マイナスの条件付けをされる。そして、インチキのプレスリリースをうつ、という詐欺的行為は、プラスの条件付けをされる。まるでこの業界全体の構造自体がが、善良な人間を悪の手先に変える、サタンの洗脳機械のようなものなのである。あの円筒形のビルでは、サングラスをかけた、額に傷のある、かなり悪そうなパブロフの犬が日夜量産されているのである。
もちろん、こういう状況にありながらも善良な人間はいる、と主張されるかたもいるのだろう。たしかに、そういう人間がまれにいる。しかし、実際にいっしょに仕事をしてみれば分かるが、彼らの方が、むしろたちが悪い。彼らは、キリストのような一流の詐欺師に共通して見られる特徴をもっている。すなわち、自分のうそを自分でしゃべっているうちに、自分でも信じ込んでしまうという特徴だ。
今回、堀江さんが家宅捜索を受けているのは、彼が、もっとも悪だからではない。道義的には彼と五十歩百歩の詐欺行為をやっているITベンチャーなんて、いくらでもある。単に、堀江さんは、法律的に立証可能な詐欺行為をやったので、刺されたというだけだ。他の詐欺師たちは、単に法律的に立証不可能な完全犯罪的に株価のつりあげをやっているというだけの話だ。
時価総額の膨れ上がったIT企業が、なぜ企業買収をするかといえば、それが利益確定行為だからだ。一時的にイメージだけで膨れ上がった時価総額に、実体はない。いつ消えても不思議のない、不安定なガス状のものだ。それのガス状のものを、証券会社だの旅行ポータルサイトだの、実質的な価値を持つものへ、交換する事で、個体にし、片端から、実体化、固定化し、時価総額をほんとの価値として固定化しようとしているのだ。それは、まさにウソからでたマコト戦略とでもいうものだ。最初はインチキによって膨れ上がるが、やがてそれが、株価に見あった実体を持つようになれば、それはあながち詐欺とも言えなくなっちゃうんじゃないか、という気もする。ま、ぼくに言わせれば、たとえそうであったとしても、詐欺は詐欺だけどね。
こうしてみると、堀江さんはたしかに詐欺師かもしれないが、もともと悪人である堀江さんが、ウソにウソを塗り固めて、個人投資家からお金を巻き上げてきたにすぎない、という見方が、とても表層的なものの見方のように思えてくる。
もし、若き堀江さんが放り込まれた世界が、逆のパブロフ条件付けをする構造を持っていたら、どうだろう? つまり、世の中への貢献行動は、プラスの条件付けをされ、インチキプレスリリースはマイナスの条件付けをされるという構造をもった世界だ。ぼくが思うに、もちろん、あのキツくて傲慢な性格は変わらないだろうけど、こと社会への貢献という点に絞ってみれば、ほぼ間違いなく、彼はすばらしく善良な人間となり、メディアに向かって夢と理想を語りまくっていると思う。そしてそれは、彼にとって幸せな状況であるだけでなく、この社会にとってもとても幸せな状況だろう。
もちろん、だから堀江さんも被害者なのだと主張するつもりは毛頭ない。たとえ、環境がその人間を悪にしたのだとしても、悪事をした責任は、その人間自身がとらなければならない。たとえ、ほんとうに親の教育が悪いせいで少年が犯罪を起こしたとしても、その少年がその犯罪の責任をとらなくてよいということにはならない。
ただ、堀江さんの向こう側にある、本当の黒幕について、もう少しだけ立ち止まって考えてほしいと思うのだ。
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上記の内容のメールが先程匿名で届きましたので、ここに掲載しておきます。
もちろん、ぼくは六本木ヒルズなんかに行ったことはありませんし、ベンチャーに知り合いもいません。;-P