幸せになりたかった。ただそれだけを願っていた。と副題がついている本のタイトルが「悪人」である。
いいところをついている。
ーー幸せになりたくて生きているといえば「幸せ」という部分にトートロジー的な部分をすでに含んでいるので難しい
何が幸せかといわれてそれぞれの幸せがあるのであって目指すもの、なりたいものを幸せといっているだけなのだろうから幸せになりたくて生きているとはそうに違いなくてしかし何も語っていないことにはなる
ーーある男性はこんなことを語る
僕は人並みに幸せになりたいだけなんです人並み以下でいいんですよただ少しだけ自分も幸せの端っこにいて生きているなあと生まれてきて少しは幸せもあったなあとその程度は幸せになりたいんです
もちろん、生まれてきたありがたさとかこれまでも、いまも、生かされているありがたさとか、それは大きな幸せで、そこを大きく取り上げると、あとはどうでもいいようなものなんですが
悲しいことにやはり世間並みということも考えます一緒に生きていくパートナーがいたらいいだろうなと思います夕食の時に一日のあれこれを話したり聞いたりできたらいいだろうなと思います誕生日を祝ったりクリスマスを世間並みに祝ったりもしたいわけです
もちろんそのためにしなくてはいけないこともあります経済的なこともあるし気を遣ったり、自分の側で我慢したり、そんなことと総合して、まだ幸せが残るだろうかといえば、たぶん少しは残るのじゃないかと思うんですやってみたいんですよわたしなりに
残念なことに今まで誰をも結局のところ幸せにしていませんみんなそれぞれ不幸せになってたわしから離れていったそれだけの人生なんですたったそれだけで人生のアウトラインが表現できてしまうんです
どうしてなんでしょう一時的な強烈な幸福はあるしかし持続的な静かな幸福がないそういえばいいのか
そのような持続的で静かな幸福に私は向かないんでしょうか何が欠けているのか何が過剰なのか考え続けていますがよく分かりません
とにかく私の近くには幸福な団らんはないんです
ーー白菜をゆでてポン酢で食べる、それでどうでしょう?