我流の独学者には限界がある。
ヒルティ『眠られぬ夜のために』第二部「このような(霊的な)直感的認識を受け入れるために、また、それを害なしに自分の内部で消化するために、ある種の予備的修業を必要とすることに留意しなければならない。さもないと、我流の独学者が生まれる。(以下略)」(岩波文庫:草間・大和訳)
ーー関係ないが岩波書店は経営は大丈夫なのだろうか
ついでなので採録すると
ーー最近の岩波書店は本当にひどい状態になっているようで、岩波新書で昔の日本のアジア侵略を正当化するような本が堂々と出ている上に、イスラエルによるパレスチナ虐殺を支持する鈴木ムネオやその子分佐藤優の執筆者起用、さらに汚職で捕まった元防衛事務次官・守屋武昌(岩国米軍基地への空母艦載機部隊移転に反対した当時の岩国市長・井原勝介氏にに対して事あるごとに横暴な圧力を加えてきたのがこの男。その高圧的で薄汚いやり方から岩国では「悪代官」と揶揄された。実際に守屋がやった岩国市民をいじめる一方で山田洋行にタカって接待を受けていた所業はまさに時代劇の悪代官そのもの)まで登場するとあっては何をかいわんやでしょう(詳しくはmedia debugger氏と金光翔氏のブログを御覧下さい)。守屋は沖縄の普天間基地移設で辺野古の沖にV字型滑走路を作るアイデアを出した人間でもあり、米軍基地を沖縄から国外に追い出すなどという考えは全くなかった人間だという事を忘れてはなりません。そんな「悪代官」が今や「岩波書店の著者」とは…。辺野古の海に米軍基地を作ろうとした人間の復権に手を貸すようでは世界という雑誌も本当に救い難い所まで落ちたようです。世界と週刊金曜日はそのうち守屋の逮捕も「国策捜査の不当逮捕」と言い出すかも知れません。 どうも日本の出版社というのは経営が傾くと右翼に媚びてその手の執筆者を起用したり出版物に手を染めると言う風潮があるようです。佐藤優を重用する週刊金曜日はもちろんですし、「間違いだらけのクルマ選び」で有名な草思社なんて昔は平澤正夫氏(医療・食品・自然環境問題のジャーナリスト。サリドマイド薬害事件では被害者支援などでも活躍。化粧品公害やサントリー製ウイスキーの品質問題、日本野鳥の会の組織腐敗を暴くなど反骨の塊のようなルポ多数)の訳書・著書や、ベストセラーになった「ファーストフードが世界を食いつくす」の日本語版も手がけるなどかつては良書を出す出版社と思っていたのですが、2002年頃から急速に右翼的な本を連発するようになりました。例えば韓国の親日派のチンピラが書いた「親日派のための弁明」や北朝鮮による拉致問題関連書籍などが同社から山のように出ています。これは同社が経営不振になった為に右翼の「組織票」頼みでそうした路線に手を染めたと言われていますが、結局会社の経営は好転せず2006年に民事再生法の適用を申請して倒産、現在は文芸社の子会社になるという哀れな末路でした。産経新聞は元より右寄りな媒体ですが、それでもかつてはこれ程までの狂信右翼ではありませんでした。産経が今のような極右路線に急激に傾いたのは現在の社長である住田良能(すみた・ながよし)が権勢を振るってからだと言われています。理由もやっぱり草思社の時と同じで極右票をアテにしての売れ行き挽回でした。で、産経新聞社の経営が好転したかというと決してそのような事はなく、2008年春のフジメディアグループ再編ではついにグループ中核子会社から外されて関連会社への「格下げ」という憂き目にあっています。産経の住田社長はフジテレビの日枝久会長とは犬猿の仲と言われており、そうした人間関係に加えて経営不振では組織の「直参」から「枝の枝」に降格されるのも当然であったでしょう。産経新聞傘下でほぼ唯一好調なサンケイリビング新聞社だけが親会社をフジテレビに変えるという「腸捻転」でおいしい部分だけ持って行かれたというのが、当時なかなか笑えましたが。岩波書店も経営状態に関しては「非常事態宣言」が言われており、同社が最近急激に右寄りになって出版物の質が落ちてきているのもこれと決して無縁ではないでしょう。こうした「日本では相当な数の右翼層がいて、いざとなったらそれの組織票に頼った本作りをすれば良い」という思い込みは、右翼の威勢の良さ(だけ)を勘違いしている所から来るのではないでしょうか。彼らは何かあるとすぐに暴力を伴う「カミカゼアタック」(笑)を仕掛けに行く訳ですから、それで彼らに相応の力と人数があると勘違いするのかもしれません。でもそんな連中が本当に現実社会で大量にいるのかとなるとそれは違うでしょう。そうした連中が右翼的な出版物を買い支えてくれるなら、なぜ草思社は民事再生までしましたか? なぜ産経新聞社はグループ内の企業的地位がガタ落ちになって笑いものになりましたか?数多くの例が示しているように右翼票を当て込んだ商売で売れ行きを挽回しようというのは無茶なのです。同じ組織票頼みでも、これなら幸福の科学がスポンサーになったアニメを制作した方がまだよほど金になるというものでしょう。一般的な右翼には「暴力やテロの組織票」はあっても、カルト宗教ほどの「金になる組織票」はないのですから。「右寄りの出版物を出せば右翼の組織票で売れる」などという考えはそれこそ、オリンピックを誘致したり原発やダムを作れば地元が潤うと考えている地方自治体のボスと同レベルの愚かな発想だという事に気付くべきです。果たして今後、週刊金曜日や岩波書店の売れ行きは好転するでしょうか? 答えは分かりきっていますね。 しかしそうした「右翼商売」をする事の本当の恐ろしさは経済的にアテにならないなどということよりももっと別の所にあります。出版社側がそうした言論内容に何の疑問も抱かず、彼らの頭の中でそれが当たり前になっていく点が大きな問題と言えるでしょう。産経のように元から右派メディアだった所がそれ以上に極右になっても大した違いははありません。が、草思社や金曜日、岩波のような元々は左派・リベラル色の濃かった所がある日突然180度方向性を変えて右翼本を出すようになった場合、最初のうちは出版社とそこの社員も「これは商売の為だ」と気が進まなくても内心で言い訳をするものですが、やがてそれに慣れてくるとそうした疑問すら抱かなくなってそれこそが世の中の真実であるかのように錯覚してくる訳です。週刊金曜日がイスラエル製品ボイコットを言いながら一方でパレスチナ人虐殺を正当化するムネオ&佐藤コンビを重用したり、憲法9条護憲を言いながら極右改憲派議員兼レイシストの城内実を自社のシンポジウムに呼んだりする矛盾は典型でしょう。いわば自分の所の出した出版物に自家中毒してしまう訳で、「左派・リベラル媒体のネット右翼化」とも言えます。身だけでなく心も染まってしまうともう手遅れでしょう。草思社はそれで潰れましたし、金曜日と岩波も多分その二の舞になる事は間違いありません。そうした出版活動が読者や社会に与える影響はもっと恐ろしいという事ももう少し考えるべきです。ーー細部についての真偽の判断は留保するとしてもまずまずそんなところだろう