「いわゆる“有害情報”」と子どもたち <男の子編>

採録
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 「子どもたちのインターネット(含:携帯インターネット)環境に関する法律が出来たことをご存知の方、どれくらいいらっしゃいますか?」

 講演のたびに参加者のみなさんに投げかけてみるのですが、認知度は予想外に低く、保護者でも、教育関係者でも、ポツリ、ポツリ、と手が上がる程度だったりします。新聞でもニュースでも結構取り上げていたはずなのですが……。

 今年6月11日、『青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律』が参議院本会議で可決されました。『青少年インターネット利用環境整備法』のように省略されることもありますが、とにかく「18歳未満の青少年が健全にインターネットを利用できるように」するための「違法・有害情報対策」や「教育・啓発活動」等に関する法律が成立したのです。「保護者の責務」や「教育の推進」という項目もあるので、対象年齢のお子さんのいるご家庭や、小・中・高校(含:養護学校)の教育に携わるみなさんには、ざっくりとでOK、とにかく知っておいていただきたい法律です(参考資料)。

 さて。

 法律ができるほど、青少年に与える影響が問題視され続けているのが、いわゆる“有害情報”です。性的要素や暴力要素を含む「18歳未満禁止」のアダルト系コンテンツはそれに当たります。特に、性的要素の高い内容については、思春期の健康な男の子なら成長の過程で“必ず”生じる興味。これをお読みの男性のみなさんも、ご自身が中高生の男の子だった頃には興味津々ではありませんでしたか?

 インターネットがなかった時代には、大人の目を盗んで(笑)新聞や雑誌、映画やビデオ、などを見ていたのではないかと思います。お母さんに見つかって「こっぴどく叱られたよ!」という思い出のある方もいらっしゃるかもしれません。でも、昔はよかったのです。グラビアページやアダルトビデオの向こう側から魔の手が伸びてくることなんて、絶対になかったのですから。

 ところが、インターネットの向こう側には人がいます。パソコンやケータイを利用してネット上のアダルトコンテンツを覗き見しているだけで、ネットの向こうから悪意が仕掛けられる可能性もあるわけです。それは、

-ウイルスやスパイウエア
画像や映像を読み込むとき、そのデータに紛れ込んで悪意のソフトも一緒に読み込んでしまう危険。ウイルスで機器や環境を壊すくらいなら、一度痛い目をみればいいとも言っていられますが、潜入スパイのごとくアドレス帳の内容やID・パスワードなどの個人情報を密かに外部に流されては、取り返しのつかないことになってしまいます。

-架空請求
「無料だと書いてあったのでうっかり登録しちゃった」という安易な行為はもってのほかですが、登録や書き込みをしなくても、一度でも見た経験があると、架空請求メールが届くたびに「あの時見たサイトからかも」とビクビクしなければならなくなります。実際、不安が募って支払ってしまう人がいるから、架空請求は後を絶たないのです。

 

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 ある意味、今の時代は「ヌード写真」や「アダルトビデオ」を見ていてくれた方が安全なのです(注:決して「見せましょう!」と推奨しているわけではありませんよ)。

子どもたちは、アダルトサイトを安全なものと考えてアクセスするわけではありません。彼らは、思春期の男の子なら誰もが遭遇するであろう興味を満たそうとしていることを、大人たちに見つかりたくないだけなのです。なぜなら、確実に叱られると分かっているから。彼らは、

 「雑誌やビデオはモノがあるので見つかる可能性が高いけれど、パソコンなら履歴を消せばいいし、ケータイなら手の中にあるから大丈夫」

 

……と、「見つかったら確実に叱られるという一時的な危機感」への対応策を真っ先に考え、次にネットで見た際の「もしかしたら自分の身に降りかかる“かも”しれない危険」と天秤にかけます。そして、即座に「危険が生じない可能性も十分にあるはず」と結論を出し、ネットに向かってしまうのです。

 子どもたちをネットに追いやらず、雑誌の袋とじグラビア程度?でとどまっていて欲しいと考えるのは、間違いでしょうか。息子の部屋を掃除していて週刊誌の1冊や2冊を見つけてもガミガミ怒らず、「興味があって当たり前の年齢だけど、ちゃんと宿題しなさいよ!」程度にしておこうと意識してみることをオススメします。

 もちろん、フィルタリングで防ぐこともできますが(これはまた別の回でお話します)ある程度の年齢になったら、自分で危機管理をする術を学ぶことも大切です。18歳になって解禁された途端に大怪我をしないためにも、少しずつ、対応力や判断力を身につけさせてあげるのが身近な大人の重要な役割のはずですから。

 


 

(尾花 紀子=ネット教育アナリスト)