風吹けば 峰にわかるる 白雲の 絶えてつれなき 君が心か 壬生忠岑

風吹けば  峰にわかるる  白雲の  絶えてつれなき  君が心か
壬生忠岑
これなどは実に古典的 現代語への翻訳さえいらない
白雲は峰から離れて二度と帰らない
君の心も私から離れて二度と帰らない
こころの外の風景を語り
こころの内の苦しさを語る
こころの中の語りたいことがあるから
目にするものがメタファーになる
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メタファーとして見るならば
こころとこころを遠ざけた「風」は何だったのか
風に罪はないが やはり風が憎いのである
あの日、峰と白雲は似合いのようでよくなじんでいたのだ
なじむ一歩手前だったのかもしれない
それなのに風が吹いてすべては変わってしまった
誰が悪いのでもない 風は吹くものだ とも言えるし
風神が懸命に吹いているのだとも言えるし それが運命なのだとも言える
たかが 風に 翻弄される 運命でしかなかった
あなたが強くなかったのだと言われれば そうかもしれない
わたしはただ 遠ざかる あなたを 見ていただけだった
もっと弱くなって もっと泣けばよかったと いまは思う
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雲が峰から離れてそのまま漂っているならば
また峰を必要とするだろう
しかしもう雲は新しい峰を見つけて
幸せそうである
私の出る幕ではない
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絶えてつれなき  君が心か
といわれて考えてみるが
こころをみたす他のものはあるのだが
そうでない部分で忘れられないのだった
風吹けば  峰にわかるる  白雲の 影の白さを 忘れかねつる
あの日、きみは、わたしに、恋を教えたじゃないか